医院開業コラム
看護師採用のプロ直伝 採用NEW STANDARD 第9回
2025.08.19
これまでのコラムでは、ペルソナ設計、SNSでの情報発信、採用ジャーニーといった考え方を通じて、求職者の視点に立った情報設計の重要性を解説してきました。第9回では、次のステップとして職場環境に視点を移し、採用戦略を考えるフェーズに入ります。その鍵となるのが“非常勤看護師の採用”です。
看護師が離職する背景には、結婚や出産といったライフイベントだけでなく、人間関係や業務量など、職場への不安も多くあります。こうした中で、まずは非常勤として働き、自分に合うかを確かめたいという潜在的ニーズが広がっています。
もちろん、ニーズの要因はこの限りではなく、さまざまな要因がありますが、市況が変化していることは事実です。昨今の採用市場では、スキマバイトや超短期バイトをメインとした採用媒体が台頭しています。今回は、こうした市況を踏まえ、非常勤採用をどのように活用し、採用戦略へと組み込んでいくかを考えていきます。
看護師の離職理由は、結婚や出産といったプライベートな要因だけではありません。株式会社R&Gが2024年に行った「看護師を辞めたい理由に関する意識調査」では、人間関係や過度な業務負担、職場との価値観のズレなど、職場環境に関する不安やストレスが上位に挙げられました。
【看護師を辞めたいと思う理由】
引用元:株式会社R&G
これらは、実際に働いてみなければわからない、見えにくいリスクです。そのため、正社員としてフルタイムで働くことをいきなり決断するのは、求職者側にとって非常に大きなハードルになります。特に、ブランクのある看護師や子育て中の方にとっては、職場が自分に合うかどうかを見極める時間と手段が必要です。
このような背景から、最近では非常勤やスキマバイト、パート勤務など、柔軟な働き方を選ぶ求職者が増加しています。働きたい気持ちを持っていても、いきなり正社員になることに慎重なのです。事業者側としては、このニーズを“採用の入り口”として前向きに受け止める必要があります。非常勤採用を単なる人員補填ではなく、相性を確かめ合うプロセスと捉えることで、採用活動における新たな可能性が広がります。
また、こうした柔軟な受け皿を用意しておけば「自院は働き方に理解のある職場だ」と伝えることにつながり、ブランドイメージの向上にも寄与します。まずは「非常勤から働いてみたい」という声に応える準備が、自院の採用力を高める第一歩になるのです。
採用活動では、求人票やSNS、採用サイトなどで情報発信を行いますが、どうしても職場の空気感や働いている人たちの雰囲気といった要素までは伝えきれません。どれだけ自院が魅力的に書かれていても、求職者からすれば「実際に働いてみたら違った」というケースも多く見られます。
この情報の非対称性を解消する手段として大きな役割を果たすのが、非常勤採用です。求職者は、実際に短時間・短期間働く中で「どのようなスタッフがいるか」「どのようなコミュニケーションが行われているか」「業務のペースが自分に合っているか」など、入職前には見えなかった部分を確認できます。この実体験による相性確認は、求職者にとって非常に大きな安心材料となります。
「働いてみてから判断したい」という求職者のスタンスは、決して消極的な姿勢ではありません。むしろ「自分にとって良い職場を慎重に選びたい」という意識の高い人材であることが多く、中長期的な定着や信頼関係の構築にもつながります。第7回で解説した採用ジャーニーの観点から見ても、非常勤採用は「比較・検討」のフェーズにおいて、求職者に安心と納得を与える重要なタッチポイントなのです。
この記事をシェアする