医院開業コラム
看護師採用のプロ直伝 採用NEW STANDARD 第7回
2025.06.16
看護師の採用難は一部の話ではなく、医療業界全体の共通課題です。特に、開業医の場合は「募集していることを知られていない」「応募が来ない」という二重の壁に悩むケースが少なくありません。
これまでの連載では、求人写真(第3回)やSNSの活用によるソーシャルリクルーティング(第4回・第5回)、ペルソナ設定(第6回)など、実践的な採用手法を段階的に紹介してきました。これらはすべて、今回テーマに挙げる求職者の心理と行動に着目した“採用ジャーニー”というフレームワークの考え方をもとにしています。
採用ジャーニーとは、もともとマーケティングで使用される「カスタマージャーニー(購入者の行動特性)」をベースに、転職希望者(求職者)の行動プロセスをモデル化した考え方です。人が“応募”という行動に至るまでには①知る②興味関心を持つ③比較検討する④応募するという段階をたどることが分かっています。
今回は、この採用ジャーニーに沿って、看護師採用における情報発信とナーチャリング(関係構築)の具体策を解説していきます。
― 知られなければ、選ばれることもない ―
採用活動における最初の関門は「自院を知ってもらうこと」です。看護師が応募先として検討するには、まずその存在を知っていなければ始まりません。しかし、医療・福祉業界、特に開業医においては、認知度が低いためにそもそも選択肢に入らないというケースが多く見られます。いくら待遇や環境が良くとも、知られていなければ魅力が届く可能性は低いでしょう。
この「知ってもらう」というフェーズは、採用ジャーニーにおける最も基礎的かつ重要な段階ですが、受け身の広報では実現できません。意識的に、かつ戦略的に「発見される仕掛け」を用意することが求められます。
例えば、Googleビジネスプロフィールの整備は、地域の求職者に対する認知獲得に有効です。そのため、求職者がクリニック名で検索した際に、基本情報とともにスタッフの雰囲気や診療方針が自然に伝わるよう、写真や紹介文を更新しておくことが推奨されます。また、地域密着型の情報サイトや医療専門メディアにコラムやインタビューを掲載し、地元での知名度を高めることも効果的です。
知ってもらうための取り組みとは、単なる露出量の確保ではなく、求職者と「どのように出会うか」を設計することです。これが、採用の土台を築く第一歩となります。
― 求職者の“自分ごと化”をどう生み出すか ―
求職者が応募に至るまでには、ただの認知だけでは足りません。そこに「興味を持つ」「気になる」という感情が伴わなければ、求職者の行動は起こりません。この段階で最も大切なのは“自分ごと化”を促す情報設計です。
前回までのコラムでも解説しましたが、求人媒体の情報だけでは条件面の理解にとどまりやすく、自分がその職場で働くイメージはなかなか持ちづらいでしょう。だからこそ、このフェーズでは日常のリアルな雰囲気や、現場で働くスタッフの人間像に触れることが大切です。
特に効果的なのが、SNSを活用した情報発信です。InstagramやTikTokなど、視覚的かつ気軽に見られるプラットフォームは、院内の雰囲気やチームの温度感がダイレクトに伝わります。例えば「〇〇さんの1日」や「スタッフ座談会の様子」といった動画の投稿は、求職者の心に訴える力を持ちます。求職者をナーチャリングできるからこそ、ソーシャルリクルーティングは重要なのです。
実際、2019年に看護師1,783人を対象に調査した『計画的行動理論に基づく看護師の転職意思決定モデルの構築』では「自己実現の手段を得られる」「仕事から充実感を得られる」など、価値観への共感が転職意思に強く影響を与えるであることが明らかにされています。つまり、求職者の内的動機を刺激し「この職場なら自分の看護観が活かせそう」と感じてもらえる情報発信が、応募前の行動を大きく左右するのです。
これらの情報発信はSNSだけで完結させるのではなく、オウンドメディアと連携させることで効果が倍増します。例えば、Instagramで短いエピソードを紹介し「詳しくは採用サイトへ」と誘導すれば、より深い情報を見てもらえる構造を作れます。
このように、媒体外での発信は求職者の“自分ごと化”や“疑似体験”を進める上で不可欠です。看護師に限らず、応募というアクションには感情の動機づけが必要であり、それを後押しするのがこのフェーズの役割です。
― 他院と比べられる前提で、どう差別化するか ―
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