医院開業コラム
承継入門、最初の一歩 第5回
2024.06.06
クリニック経営を継続できず、後継者も不在で「廃業するべきか、第三者に医業承継するべきか」お悩みの方も多いでしょう。両者は一長一短であるため、それぞれの特徴をしっかりと把握した上で、最良の選択肢を見つけることが大切です。
そこで今回は、クリニックの「廃業」と「承継」のメリット・デメリットを詳しくご紹介します。多角的な視野で、両者の特徴を比較・検討していきましょう。
まず、クリニックの廃業と承継をめぐる医療業界の動向を押さえておきましょう。医療業界では、後継者不在問題が年々深刻化しています。日医総研が2017年に行った調査では、8割以上の診療所経営者が「後継者がいない」あるいは「現時点では後継者が決まっていない」と回答しました。
また、後継者不足による経営者の高齢化も顕著になっており、診療所においては60歳以上の経営者が占める割合は約5割(2017年時点)との結果が出ています(詳しくは本コラムの第1回をご覧ください)。こうした「後継者不在」と「経営者の高齢化」の2つの問題を背景に、クリニックの廃業、第三者への承継を検討する開業医は増加傾向にあります。
かつて、経営者の親族や院内に勤務する医師への承継が難しい場合は、廃業するのが一般的でした。しかし、近年はM&Aによって第三者へ継承するケースも多く、それに伴い、医業のM&Aをサポートする医業承継の仲介サービスや、コンサルタントの数も増えてきています。廃業と承継のどちらが適しているのかを見極めるためには、両者の特徴を把握することが大切です。
クリニックを廃業するメリットは、主に以下の通りです。
・承継先を探したり、複雑な手続きを行ったりする手間を省ける
廃業する場合は、当然ながら承継先を探す必要がありません。M&Aに伴う複雑な手続きも発生しないため、時間と手間を省略できます。
・経営から退くタイミングを自分の意思で決められる
承継を行う際には、勇退までのスケジュールを承継する側に合わせる必要があります。しかし、廃業であれば他者の意向を配慮したり、スケジュールをすり合わせたりする必要がなく、基本的には経営者本人の意思でタイミングを決めることが可能です。
上記のようなメリットがある一方で、クリニックを廃業する際には以下のようなデメリットも考えられます。
・高額なコストがかかる
クリニックを廃業する最大の懸念点といえるのが、高額なコストが発生することです。具体的には、引き取り先が見つからない医療機器・院内設備の処分費用や、未返済となっている債務の支払い費用、従業員への退職金、さらにリーステナントの場合は物件の原状回復費用などが該当します。
また、廃業を通知した後は、患者さんの来院数が減少するケースが多いです。そのため、赤字になるリスクも考慮する必要があります。このようなマイナス分も含めると、廃業に関する全体的なコストは数百万円~一千万円超にも及ぶとされており、経営者にとって大きな痛手となるでしょう。
・患者さんを他院へ引き継ぐ必要がある
クリニックを廃業する場合は、患者さんに閉院の予定日を伝えるだけでなく、他院を紹介して引き継ぎを行わなければなりません。場合によっては、同じ地域に該当分野の医療機関が存在しないなどスムーズに引き継ぎ先が見つからないこともあるため、注意が必要です。
・スタッフを解雇しなければならない
クリニックに貢献してくれたスタッフを解雇しなければならないことも、廃業に伴うデメリットのひとつです。条件に合う再就職先がなかなか見つからないケースも考えられ、スタッフ本人はもちろん、院長としての精神的負担も非常に大きくなることが予想されます。スタッフが余裕を持って勤務先探しを行えるよう、遅くとも閉院の3カ月ほど前には通知するなどの配慮が求められます。
続いては、クリニックを承継する主なメリットを見ていきましょう。
・譲渡金を得られる
第三者に承継する場合、経営者は承継先から譲渡金を得ることが可能です。譲渡金の額はクリニックの価値や資産の金額などによって異なりますが、概ね二千万~四千万円ほど、大規模であれば一億円以上もの現金を手に入れられる場合もあります。
承継の場合も、残債を支払ったり、譲渡対象外の資産を処分したりといったコストがかかるほか、医業承継の仲介サービスやコンサルタントからのサポートを受ける場合は仲介手数料も発生します。しかし、そういった費用を差し引いても相当の現金が手元に残るケースが一般的です。そのため、経済的視点においては承継のほうが優位といえるでしょう。
・患者さんへの医療提供を継続でき、地域医療への貢献にもつながる
(さらに…)
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