医院開業コラム
承継入門、最初の一歩 第7回
2025.02.19
クリニックを経営する医師にとって「ハッピーリタイア」はキャリアの最後を充実させるための重要なステップです。しかし、その実現は決して容易ではなく、計画的かつ慎重な準備が欠かせません。
本記事では、医療業界におけるハッピーリタイアの意味や近年の傾向、目指すメリットを解説します。また、譲受側にとってのメリットにも触れながら、スムーズな医業承継に向けて必要な準備について詳しくまとめました。
一般的に「ハッピーリタイア」とは、経営者が豊かな老後資金を確保した上で早期に退職(リタイア)することを意味します。医療業界におけるハッピーリタイアもこの概念と同様ですが、開業医の場合は単にリタイアするだけでなく、診療所や病院の承継について検討しなければなりません。
開業医がクリニックを承継する方法としては、親族にクリニックを継承させる「親族内承継」、院内の勤務医に引き継ぐ「院内承継」、第三者に売却する形で承継する「第三者承継」の3つの選択肢があります。かつては経営者の子どもが跡を継ぐスタイルが主流でしたが、近年は後継者不足によって第三者へ承継するケースが一般的となっています。
M&Aによるハッピーリタイアには、譲渡側と譲受側の双方において大きなメリットがあります。
【譲渡側のメリット】
● 豊かな老後資金を確保できる
M&Aによってハッピーリタイアする場合、経営者はクリニックの売却に伴って譲渡益を得ることができます。特に経営が好調なタイミングで売却すれば、高い評価額での取引を期待でき、豊かな老後を送るために十分な資金を確保できるでしょう。
● 地域医療に貢献できる
後継者が見つからずに廃業する場合、通院している患者さんは他のクリニックへ転院しなければなりません。しかし、M&Aによって医業承継を実現できれば、患者さんは治療を継続でき、地域医療の貢献にもつながります。
● スタッフの雇用を守れる
医業承継の条件にスタッフの継続雇用を含めることで、現在勤務しているスタッフの雇用を守れるのは大きなメリットです。もちろん勤務を継続するかどうかは各スタッフに委ねられますが、希望すれば引き続き働くことができるため、安心感を持ってリタイアできます。
● 達成感や満足感を得られる
ハッピーリタイアによってクリニックを売却することは、経済的な安定以外に精神的な達成感ももたらします。後継者不在によって廃業する場合に比べ、より高い満足感を持ってキャリアを締めくくることができるでしょう。
【譲受側のメリット】
● 初期費用を抑えて開業できる
クリニックを承継する側としては、新規開業に比べて初期費用を大幅に抑えられることが大きな魅力です。クリニックを新築する場合は物件の購入費や建設費のほか、医療機器や家具、各種備品の準備にも多額の費用がかかります。一方、承継開業においては基本的に既存の建物を引き継ぐことが可能であり、承継条件によっては医療機器や家具などもそのまま使用できます。
● 患者さんやスタッフを引き継げる
医業承継においては、既存の患者さんやスタッフを引き継いで開業できることも譲受側のメリットです。まず、患者さんを引き継ぐ場合は開業当初から一定の患者数を確保できる上に、経営が好調のクリニックを承継できればまとまった売上を見込めます。過去の患者データや収支情報を参考に、より正確な事業計画を立てられることも魅力のひとつです。
また、業務に慣れた既存スタッフを引き継ぐことができれば、開業直後からスムーズな運営を目指せます。さらに、長年働いているスタッフは患者さんとの間に信頼関係を築いていることが多いため、新しい院長に変わっても患者離れが起こりづらいといったメリットもあります。
● 近隣の医療機関との連携がしやすい
M&Aによって既存のクリニックを引き継ぐことで、譲受側は前院長が築いた地域の医療ネットワークを活用できます。患者さんを他院に紹介したり、逆に紹介してもらったりといったやり取りがしやすいほか、医療情報の共有もスムーズに行えるでしょう。
【譲渡側・譲受側のメリット】
前述のように、M&Aによるハッピーリタイアは開業医にとってさまざまなメリットがあり、譲受する側にとっても大きな魅力があります。ただし、なかには承継先が見つからずに閉院となるケースも考えられるため、開業医の方がハッピーリタイアを目指す場合は、以下のような準備をしっかりと行うことが大切です。 (さらに…)
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