医院開業コラム
開業×人材×経営の三重奏 第4回
2026.05.07
「スタッフが全然定着しなくて……」これは、クリニックの院長からよく聞く悩みです。採用してもすぐに辞める、辞めるたびに求人を出す、再び採用してもまた辞める。この繰り返しに疲弊しているクリニックは、決して少なくありません。
これまで多くのクリニックの経営相談に関わってきた中で、定着率の低いクリニックには、ある共通点が存在することに気づきました。それは、採用と教育を「別々のもの」として捉えている点です。採用はできたけど入職後の教育が追いつかない、「思っていたのと違う」と感じたスタッフが辞めていく――こういった悪循環は、採用の設計を見直すことで断ち切ることができます。
そこで第4回では、人が定着する人事計画の考え方と、採用を成功させるための具体的な視点を解説します。
少し無粋ですが、まず数字の話からお付き合いください。数字は、人事計画を考える上で土台となる視点です。
クリニック経営において、人件費は最大のコスト項目です。売上に占める人件費の割合は25〜35%が目安とされており、社会保険料(法定福利費)を含めた実質コストで計算すると、スタッフ1人あたり月に数十万円単位の固定費が積み上がります。
また、採用コストを気にする院長は多いですが、見落とされがちなのが教育コストです。「採用する→辞める→求人を出す→採用する→また辞める」といったサイクルを繰り返すのは、求人コストがかかる上に、新しいスタッフが1人で業務をこなせるようになるまでの教育コストを二重、三重に支払い続けることを意味します。
また、教育を担当したスタッフにとっては、せっかく教えて独り立ちしたスタッフがすぐに辞めてしまい、再度新しい人を教育しなければならないため、心理的負担も相当大きくなるでしょう。
このサイクルから抜け出すには、採用力を高め、自院に合う人材をきちんと見極めて採用することが重要です。そうすれば、浮いたコストを既存スタッフの賃金引き上げや教育・研修、福利厚生の充実に回すことができます。人件費を「いかに抑えるか」ではなく「いかに正しく使うか」という発想の転換が、クリニック経営を安定させる鍵になるのです。
しかし、人件費をコストだけで考えてしまうのは危険です。私は院長先生たちに「クリニックは医療事務で始まり、医療事務で終わる」とよくお伝えします。患者さんがクリニックに入ってきて、最初に出会うのは医療事務スタッフです。その第一声で、患者さんのクリニック体験は始まります。診察を終えた患者さんが最後に会うのも、やはり医療事務スタッフです。お会計のやり取りを経て「お大事になさってください」「お気を付けて」という一言で、クリニック体験は締めくくられます。
先生の診察がどれだけ丁寧でも、入り口と出口の印象が悪ければ、患者さんの記憶に残るのは違和感です。逆に、受付の対応が温かいと「また来たい」「このクリニックに任せたい」という気持ちが育まれます。つまり、スタッフへの投資は、医療の質への投資そのものなのです。
多くのクリニックが採用活動でつまずく理由のひとつが「どんな人を採用したいか」が漠然としていることです。例えば「明るくてコミュニケーションが取れる人」「真面目に仕事に取り組める人」などは、誰にでも当てはまります。そこで、私がクリニックの相談に乗るときは、職種ごとに「採用したい人のペルソナ(具体的な人物像)」を描いてほしいと必ずお願いしています。
例えば、下記のようなイメージです。
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