医院開業コラム
開業×人材×経営の三重奏 第1回
2026.01.26
開業医の先生方とお話している中で「先生のクリニック、経営理念はありますか?」と尋ねると「経営理念?そういえばホームページに載せていたような……」という反応に出会うことがあります。開業時にホームページを作ったものの、その後一度も見返していない、スタッフも内容を知らない、そういったケースは決して珍しくありません。
一方で、経営理念が本当に息づいているクリニックもあります。スタッフが迷ったときの判断基準にもなり、採用面接でも自然と語られ、患者さんにも「このクリニックらしいな」と感じてもらえる、そんな経営理念です。
では、この違いはどこから生まれるのでしょうか。第1回では経営理念の本質を紐解き、機能する経営理念の考え方と、具体的な作り方・生かし方をお伝えします。
多くの先生方が誤解しているのは「経営理念は対外的に掲げるもの」と思っていることです。たしかに、経営理念をホームページに載せることもありますが、本来の役割はそこではありません。経営理念の本質は、毎日の小さな判断の積み重ねを導くことにあります。
例えば、こんな場面を想像してみてください。
・予約がいっぱいの日に、急患らしき電話が入った
このとき、受付スタッフは「今日は無理です」と断るべきか、何とか時間を作るべきか、明確な経営理念があれば判断できます。自院の経営理念が「地域のかかりつけ医として、困ったときに頼れる存在でありたい」のであれば、何とか時間を作る方向で考えるでしょう。一方、予約制による丁寧な診療を重視しているのであれば、別の対応を提案するかもしれません。
こうした日々の積み重ねが、クリニックの“らしさ”を作ります。つまり、経営理念は看板ではなく、内側から組織を動かすエンジンなのです。
「勤務医時代は経営理念を気にしたことがなかった」という先生も多くいらっしゃるでしょう。勤務医は組織の一員として属する組織の方針に従えばよかったのですから、それも無理はありません。しかし、開業すると、すべての判断が自分に降りかかってきます。
・この設備投資は本当に必要か
・診療時間を延長すべきか
・どのようなスタッフを採用すべきか
・新しい診療メニューを追加すべきか
こうした判断を、その場の思いつきや損得勘定だけで行っていると、クリニックの方向性がブレていきます。5年後に振り返ったとき「結局、自分は何がしたかったんだろう」と迷子になってしまう院長は少なくありません。
また、スタッフの離職率が高いクリニックには2つの共通点があります。一つは「何を大切にしているのか分からない」という不安。もう一つは「経営理念と院長の言動が一致していない」というギャップです。
どれだけ立派な経営理念を掲げていても、院長自身がそれに反する行動を取っていれば、スタッフは幻滅します。例えば、経営理念に「患者さんに寄り添う」と書いてあるにもかかわらず、院長が患者さんを急かしたり、説明を省略したりする。こうした不一致は、スタッフのモチベーションを確実に下げます。
経営理念は対外的に見せるための看板ではなく、院長自身が日々実践すべき“約束”です。逆に、経営理念が共有されているクリニックでは、院長が細かく指示しなくても、スタッフが自律的に動けます。その理由は「このクリニックなら、こうするだろう」という共通理解があるからです。
では、どのような経営理念が、機能する経営理念なのでしょうか。私が考える条件は、次の3つです。
「患者さんに寄り添う医療」「地域に貢献する」。こうした言葉は美しいですが、どのクリニックにも当てはまります。これでは経営理念として機能しません。
大切なのは、経営理念に院長自身の“譲れないもの”が入っているかどうかです。「なぜ勤務医を辞めて開業したのか」「何に不満を感じていたのか」「開業して、どうしても実現したかったことは何か」。この答えの中に、本当の経営理念があります。
経営理念は、きれいな言葉でまとめる必要はありません。多少粗削りでも「院長らしい」と感じられる言葉のほうが、組織を動かす力を持っています。
2. 行動指針につながる
(さらに…)
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