医院開業コラム
ドクターのための医業経営力養成講座 第4回
2016.01.27
新しく年が明けると、いよいよ確定申告の準備がはじまります。所得税や法人税、消費税のような税金は納税者自らが確定し、それが誤っている場合や確定させていないときに税務当局が確定するという方式をとっていて、これを申告納税方式と読んでいます。平たく言うと「今年はこれくらい稼いだので、これだけ税金を払います」ということを自分で自己採点するイメージです。その自己採点が誤っていたり、判断が甘かったりすると税務署当局からしっぺ返し(=税務調査)を食らうというわけです。
個人の確定申告は所得税法で1月1日から12月31日までの間の収入について、その翌年の2月16日から3月15日までの間に納税することと定められています。確定申告が必要なのは以下に該当するような場合で、当然みなさんの目指す開業ドクターも含まれます。
所得計算のプロセスは細かくみていくととても複雑です。紙面上そのすべてを取り上げるわけにはいかないので、ここでは本業である医業による収入(=事業所得)に絞ってその概略とポイントを説明します。
まずはさまざまな種類の所得の金額を算出するとこから始まります。
クリニックの収入は一般的に社会保険診療収入、自由診療収入および雑収入からなります。保険診療については消費税、事業税が課されないので、ここでは除外します。
開業ドクターのその他の収入としては、例えば以下のものがあげられます。これらは事業所得と合算され、所得税の計算に反映されます。
◆給与所得
ただしすでに源泉所得税が徴収されていますので、その分は納付額から控除されます。例としては、地方自治体などが設置した病院、保健所などで診療する場合の従事医師手当や学校医、嘱託医、産業医手当などがこれに該当します。
◆不動産所得
たとえば賃貸不動産を所有しているような場合、その賃料収入から減価償却費、管理費、固定資産税、支払利息などを差し引いた金額を、課税額の計算に反映します。
◆雑所得
原稿料、講演料などにより受けとる報酬を指します(ただし給与、退職所得を除く他の所得との合計が20万以下の場合は申告不要です)。
税務には必要経費という考え方があります。会計上は費用として処理していても、税務では費用として認めないケースは少なくないので注意が必要です。基本的な考え方は下記のとおりですが、税務調査に関する項目の中で後述します。
(※1)専従者給与とは同一生計の家族(15歳未満の方をのぞく)に対して支払う給与を必要経費にするというものです。個人開業ドクターにとって家族内で所得を分散する効果のあるものです。ただし他でパートなどの仕事をしていてはだめで、もっぱらクリニックだけに従事していないといけません(年の途中から働き始めたとしても6ヶ月を超える期間が必要)。また青色専従者の場合は給与の額、支給期などを記載した届出書を、適用を受けようとする年の3月15日までに提出しておく必要があります。
(※2)たとえば高級車などを購入して減価償却で落とせるかというような相談がよくあります。高級車がすべてNGということでなく、事業に使っていない割合については必要経費から外します(超高級スポーツカーなど趣味性の高いものは当然否認されます)。また、学会参加費(交通費、宿泊費)でも遠方で行われた場合、観光に相当する経費の部分は除かれます。
◆社会保険診療に対する概算経費の特例
医療法人、個人ともに社会保険診療報酬が5,000万円以下で、なおかつ自由診療報酬との合計額が7,000万円以下であれば、租税特別措置法により下記の概算経費率を適用することができます。実額経費と概算経費のいずれか有利な方を選択できます。
◆医療機器などの特別償却
青色申告をしている医療法人が指定期間内に以下のような医療機器を取得し、事業のために使用した場合はその事業年度について次の特別償却が認められます。高額な医療機器を購入した場合、あるいは購入する予定がある場合に適用されないか確認するとよいでしょう。
課税標準とは税金を課す際の基準となる金額のことです。所得の中にはその年の業績によってプラスもあればマイナスもありえます。その凸凹を調整する必要があるわけです。
その年の所得の中にマイナス(損失、赤字)があったときに、それを他の所得から差引くことを損益通算といいます。不動産所得の赤字を事業所得、給与所得から差引くというようなケースを指します。ただし不動産や株の譲渡損などは事業所得、給与所得から差引けません。
上記の損益通算をしてもなお損失になることを純損失といいます。また、雑損失とは不幸にも災害や盗難のような災難に遭って大きな損失があったとき、その年のマイナスだけでは吸収できない場合をいいます。そんなとき青色申告を提出していればそれらの損失を3年間繰越しすることによって、その後の所得が出た年の税額を抑えることができます。
所得控除は14種類あります(雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄付金控除、障害者控除、寡婦・寡夫控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除)。納税者個々の事情を反映したものですが、これらを差引くことによって課税所得が決定されるというわけです。
ここでは適用要件のなかでの主な留意点についてのみ取り上げます。
◆配偶者控除、扶養控除
ただし、配偶者が事業専従者の場合には対象になりません。また扶養控除は15歳以下の子供には適用されません。
◆医療費控除、社会保険料控除
本人だけでなく、生計を一緒にしている配偶者のほか、ご家族が支払った医療費、社会保険料も控除の対象です。なお、健康診断(一定の場合を除く)などの費用は医療費控除の対象になりません。
いよいよ最終段階です。第3段階までで求めた課税所得に税率をかけて税額を算出することになります。個人の所得税率は累進課税といって、所得が高いほど税率が上がる仕組みになっています。所得税と住民税の合算税率表は下記のとおりです(平成49年までとされる復興特別所得税を含みます)。
税額控除についても、主なものだけを取り上げておきましょう。以下の支出は課税額から控除されますので、覚えておいて損はありません。
◆住宅ローン控除
新築・中古の住宅(や敷地)をローンで購入した場合、あるいは住宅を増改築(リフォーム)した場合に、一定の条件を満たせば最長10年間、年末のローン残高に応じて所得税が軽減されるものですが、合計所得金額が3,000万円を超える年は適用されません。
◆ふるさと納税(寄付金控除)
最近はやりのふるさと納税は次のように計算します(参考:総務省ホームページより)。寄付金控除は税額控除制度ではなく所得控除ですが結果として所得税から控除され、住民税は税額控除として適用されます。ふるさと納税といっても実際は寄付金であって納税ではありません。多額の寄付をしたからといってその分が税金から差引かれるのではなく限度額があることに注意してください。
◆住民税
所得税の申告をするとその情報が地方公共団体へデータ送信されることになっていますので、あらためて住民税の申告をする必要はありません。住民税は前年の所得に対して課されるものなので、それまで所得が大きくなかった場合はそれほど負担感がなくても、所得が急増した場合はその翌年に多額の住民税がかかります。その額を試算して手もとに資金を残しておく必要がありますので、注意が必要です。
いかがだったでしょう。税務会計はちょっと複雑ですが、独立すればずっとつきあっていかないといけないものです。理解できるまでじっくり読んでくださると嬉しいです。後半の②に続きます。
第5回 クリニックの税務会計[後編]確定申告のポイントをおさえよう!
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