医院開業コラム
ドクターのための医業経営力養成講座 第1回
2015.10.22
初めまして、リーガル・アカウンティング・パートナーズで代表を務めます、水本昌克と申します。現在、税理士、行政書士事務所の代表とともに医療法人及び社会福祉法人の監事、NPOの理事を務め、医療経営やクリニックの相続・事業承継対策を中心に、医師の皆様の事業サポートを行っています。
こちらでは、医院開業や事業継承について開業医の先生方のお役に立てるよう、税理士の立場から綴ってまいります。どうぞよろしくお願いします。
さて、ドクターにとって“独立開業するか否か”という選択は間違いなく人生の大きな岐路になります。独立の決心に至る理由は人それぞれ違うと思いますが、開業したらもう簡単に後戻りはできませんし、家族の協力も欠かせません。何のために開業するのか(収入?ライフスタイル?提供したい医療のため?)を今一度立ち止まって考え、成功も失敗も味わう覚悟で臨みましょう。
“独立開業”自体も大仕事ですが、実はその先にある経営を続けていくことはそれ以上に大変なことでもあり、しかしその分やりがいを感じることでもあります。経営は長期戦です。迷ったら初心に立ち返り、経営者として揺るぎない信念を持ち続けることが大切です。
おそらく「開業に不安がない」という人はまずいないでしょう。では、開業適齢期とは一体何歳なのでしょうか?
開業すれば、勤務医時代のように給与をもらう側ではなく、支払う立場になります。経営感覚を身につけていくことも必要になります。勤務医時代にある程度のマネジメント経験がある場合は、それが開業のときに大いに生きてきます。そう考えると、開業適齢期というのは個人差はあるものの、ある程度マネジメントの経験を積んだ40歳前後が良いといわれます。ひとつの目安にしていただくと良いでしょう。
ドクターの場合、開業間際まで繁忙であることが多く、十分な準備時間がとれるとは限りません。面倒な手続関係や外部との交渉などは信頼できる専門家や事業者に任せ、先生自身がやるべきことに時間と労力をかけるべきです。たとえば開業地選びのためのマーケット調査などは、これから取引先となる外部の業者に依頼することもできます。
また、開業して半年くらいはまだ十分な患者が来るとは限らないので、事業的には支払い(スタッフ給与、家賃など)が先行して赤字となることが予想され、生活費もそれまでの蓄えから取り崩すことを余儀なくされます。したがってなるべく患者が多く見込まれる時期(一般に、年明けや新年度、秋口など生活サイクルの切り替え時期、診療科目にあった季節変動のタイミングが良いといわれます)をねらって立ち上がりを良くすることが、資金繰りのうえでも違ってきます。事業計画はそれらの視点を織り込んで立てていくことが大事になるでしょう。
経営は“人、モノ、金+情報”といわれます。そのなかでもまず頭を抱えるのはお金と人の苦労といえます。
最初にお金の面ですが、いざ開業を決めたならば当然そのための資金を準備しなければいけません。ところが開業時の年齢ですと、住宅や車のローンなどを抱え十分に自己資金が出せないケースが殆どです。親などからの資金援助(借入または贈与)を受けることができれば幸いですが、大抵金融機関から事業計画をもとに設備資金や運転資金のかたちで不足分を借りることになります。
お金の使い方は優先順位を決め、モノへの過剰な設備投資は禁物です。それでも資金が足りない場合はリースを活用するなども検討します。放漫経営がクリニックをつぶしてしまう大きな原因になることを心掛けましょう。
また、スタッフの採用面接や教育には積極的に関わりましょう。実際、人材採用の難しさはその後も経営を続けていくうえでずっとつきまとう問題になってきます。
上記のグラフをご覧いただくと、クリニック(無床)の増加傾向にある(表1)一方、その廃止、休止の数も多いことに気づくでしょう(表2)。クリニックにおいては、開業のタイミングはもちろんのこと、日々の健全な経営の継続、そしてゆくゆくは相続・事業承継に至るまで、関係する法律や会計、税務から労務まで経営的視点は必要不可欠なのです。大変だと思うかもしれませんが、気負わず、気軽に読んでいただけるエッセンスをご紹介できればと思っています。
次回からは、健全な経営を目指すべく、本格的に医業経営について解説していきたいと思います。次回は「決算書の見方とキャッシュフロー経営」をテーマにお送りします。
この記事をシェアする