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ドクターのための医業経営力養成講座 第6回

クリニックの税務調査と対応策

  • 財務・経理・会計

2016.04.06

ある日、税務調査がやってくる

前々回の記事で、確定申告は自己採点だというお話をしました。
第4回「クリニックの税務会計[前編]確定申告のポイントをおさえよう!」はこちら

これは個人も法人も同じです。もしも申告した内容が事実と違っている、もしくは誤った判断だったとしたら、自分で訂正するか、訂正されるかのどちらかです。税務調査は後者のながれになります。

調査に際しては国税通則法という法律で、原則として納税者に対し、事前に調査の日時、場所、調査対象、税目、調査対象期間などを通知することになっています。その際、税務代理を委任された税理士に対しても同様に通知されます。 

もしある日、税務調査が来るということになったらどう対応しますか?多くの先生がそれをトラブルと感じるかもしれません。しかし、社会生活にはいろいろなトラブルがつきものです。そのようなトラブル時には、刑事訴訟や民事訴訟では証拠に基づいて争われます。それは税務においても同様であるといえます。

専門的能力とは証拠から事実関係を確定することでトラブルを解決することだといいます。私たち税理士も日頃の業務にあたり書類を大事にしています。なぜなら事実関係は書類で判断されるからです。 

調査に臨むにあたっては事前の準備は欠かせません。もっとも多いとされるのは、納税者側の資料不足により課税認定されるというトラブルです。それを避けるために、事前準備は怠らないようにしたいものです。顧問会計事務所とは事前に打合せをし、改めて内容を含めチェックしてもらいましょう。 

<税務調査で用意すべき主な書類一覧>
調査対象期間の決算申告書、総勘定元帳
窓口日計表、集計表
社保、国保のレセプト総括表及び決定通知書
現金出納帳、預金通帳
タイムカード、給与台帳、源泉徴収簿
薬剤費、委託費等の請求書
リース、家賃等の契約書
MS法人との契約書(計算根拠資料)
総会、理事会議事録(医療法人の場合)
患者予約ノ-ト 等 

税務調査を受ける心構え

税務調査は、規模による違いはありますが、通常の場合、税務職員が12名くらいクリニックにやってきて、12日がかりで行います。ただし、患者さんへの漏えいやその他諸事情を勘案して、クリニック以外の自宅や顧問会計事務所で対応することもできます。(その場合、上記の書類の準備は当然現地に揃えておく必要があります)

一方、税務調査には質問検査権というものがあるという前提の了解も大事です。これは税務職員が調査対象者に対し、質問あるいは帳簿書類などの検査をできるものと規定されているものですが、犯罪調査のように一方的な強制力を持って行われるものでなく、「納税者の同意のもとに提出された帳簿書類等に限られる」と解釈されています。その意味で、任意調査とされています。

税務調査を受ける心構えとしては、任意調査であるということをふまえながら、会計事務所も同席のもと、冷静に対応することです。言うまでもなく、非協力的態度を示したり、感情的に構えたりすることは望ましくありません。現況調査といっても机の引き出しやロッカー、金庫、バッグ、手帳など現物確認をするということであれば、常に調査を受ける医療機関承諾のもとで実施されるのがルールであることも知っておくべきです。とくにカルテ調査の場合、患者のプライバシーなど所得計算に関係のない部分については、医師である先生方の特別な配慮は欠かせないでしょう。 

税務調査では何を調べるのか?

医療機関の税務調査では主に次のような項目がチェックされます。 

現金管理(正確な記帳、実際残高と帳簿の一致、多額な残高になっていないか)
窓口収入を一部除外したりしていないか
保険請求収入が適正に計上(診療が行われた時点)されているか
自治体からの公費負担医療費、事務手数料などの計上は適正か
保険診療収入以外の収入計上もれ(予防接種、健康診断、治験受託収入ほか)
整形外科の労災や自賠責保険収入、歯科の自費診療収入のもれはないか
リベートや値引きの適正処理
外部委託費(検査、保守など)の計上は適正か
医薬品在庫は正しく計上されているか
固定資産と修繕費の計上に誤りはないか
勤務実態に照らして親族に対して不相当に高額な給与が支払われていないか
架空の人件費の計上はされていないか
非常勤医師に対して適正な源泉徴収がされているか
学会参加費などに個人的な支出が混ざっていないか
光熱費、通信費、飲食、贈答品など事業費と家事費の区分はできているか
車両費(ガソリン、保険、税金など)の経費算入割合は妥当か
同族会社(MS法人)との取引条件は適正か  ・・・etc. 

マイナンバーの導入でどう変わる?

今後、税務当局はマイナンバーにより納税者の複数の所得を源泉徴収票や支払調書から名寄せで所得を把握し、その者から提出される所得税の確定申告と突合することが可能になります。将来的に銀行口座にマイナンバーが適用されると、所得だけでなく資産の把握まで可能となります。ある意味とてもコワイ話です。納税者の立場からすれば、これからもっと税務調査が厳格化するといわざるを得ません。

情報化社会においては、調査において膨大な情報が収集、整理されているのです。それが極めて合理的、組織的に行われるというのがIT時代の調査の特徴といわれます。無用な緊張を避けるため、日頃から書類や契約関係の重要性を意識し、必要最低限の税法知識を身に着けて理論武装しておくことが、これからの経営にとって欠かせないと言えるでしょう。 

※このコラムは、2016年3月現在の情報をもとに執筆しています。

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執筆者紹介

水本 昌克

水本 昌克
(みずもと まさかつ)

リーガル・アカウンティング・パートナーズ 税理士

昭和41年東京都出身。平成2年慶応義塾大学経済学部卒業。損害保険会社、辻会計事務所、税理士法人タクトコンサルティング(医療福祉チーム)などを経て、平成20年に株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズを設立。現在、税理士、行政書士事務所の代表とともに医療法人及び社会福祉法人の監事、NPOの理事を務め、医療経営、相続・事業承継対策を中心とした業務に取り組んでいる。
水本昌克氏が代表を務めるリーガル・アカウンティング・パートナーズのWebサイトはこちら

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