医院開業コラム
FP佐久間のみらいマネー研究所 第9回
2018.08.31
前回、「法人で加入する生命保険がどのような場合に有効なのか」について考えました。お伝えした通り、生命保険の加入目的は、主に以下の5つに分けられます。
1. 経営者(理事長)としての事業保障
2. 役員・理事の死亡退職慰労金、弔慰金支給の財源確保
3. 理事の勇退退職慰労金の財源確保
4. 経営者(理事長)の相続・事業承継対策
5. 職員の福利厚生、退職金の財源確保
前回は1から3までお伝えいたしましたので、今回は「4.経営者(理事長)の相続・事業承継対策」と「5.職員の福利厚生、退職金の財源確保」について考えていきます。
4. 経営者(理事長)の相続・事業承継対策
医療機関の経営者の相続・事業承継を考える場合、状況により対策方法はさまざまです。まずは、「相続を考慮した法人での生命保険の加入」について、見ていきましょう。
一般的に医療機関経営者の資産は、事業用資産(病医院建物・土地および医療法人の持分など)が将来の相続財産の大部分を占めるとされています。また、事業を承継した相続人に分割される資産が他の相続人に比べて大きいため、分割が難しいことが特徴といわれています。つまり、現金のように分割できる資産が十分にある場合には問題ありませんが、医業関連資産の状況により、相続人の間でのアンバランスが生まれる可能性が高く、事前の対策と準備を怠ると、大きなトラブルの要因となってしまうのです。
そこで、生命保険独特の機能である「受取人の指定」などを考えます。生命保険は死亡保険金の受取人を指定できるため、相続財産の分割には大きな効果があります。受取人に一定の金額を渡すことができたり、大きな資産を相続した相続人を受取人にして代償資金の準備をしたりと、使い方はさまざまです(受取人の設定によってはトラブルを誘発するため、設定方法などについては別の機会にお伝えします)。
とはいえ、本コラムの第6回でも説明しましたが、相続に関わる生命保険は、受取時の税金について慎重に考慮する必要があります。第6回では、受け取った保険金に相続税がかかるのか、所得税がかかるのかで手取り金額が大きく異なり、税の種類を選択することは困難だとお伝えしました(詳細は第6回をご参照ください)。しかし、法人の生命保険を用いることで、この選択が可能になります。
相続の話ですから、対策のための生命保険は本来ならば個人で加入する必要がありますが、法人契約を将来個人契約に変更する機能を用いれば、法人加入の生命保険で相続対策を行うことができるのです。生命保険契約は、法人と個人(その法人の役職員)の間では譲渡可能となっています。譲渡価格は、その時点の解約返戻金の額となります。(所得税基本通達36-37)ただし、個人と個人の間の譲渡は考え方が異なりますのでご注意ください。
つまり、将来個人保険として準備する必要がある生命保険を、当初は医療法人が損金算入できる定期保険に加入し、相続の方向性が固まった後でその生命保険を個人が買い取れば(実際の手続きは名義変更)、個人の相続対策を法人加入の生命保険で行うことが可能です。買い取りを行う個人は当該法人の役職員である必要がありますが、被保険者の二親等以内の親族であれば、被相続人でも相続人でも構いません。受取の課税は、被相続人が買い取って死亡保険金受取人を相続人に設定する場合は「相続税型」、相続人が買い取って自身を受取人とする場合は「所得税型」を選択できます。いずれの場合も、保険会社によって名義変更可能な親族の範囲が異なる場合があります。
また、法人で損金算入できる保険は定期保険ですので、相続対策のために生涯の保障に変更するなどは、本コラムの第3回でご説明した「変換権」などの生命保険が持つ機能を活用することが可能です。現在では解約返戻金がなく(掛け捨て)、保険期間が90歳までの定期保険も発売されており、将来の相続に備えて法人から個人への譲渡を前提に加入される方も増えています。この定期保険は、会社によって保険期間満了前に100歳に期間変更ができるなど、相続を考慮したプランニングが可能です。
個人で加入する生命保険は支払時の所得控除の範囲も限られているため、所得税負担を考慮すると実質負担はとても大きくなります。対して、法人契約の生命保険は保険料を損金算入できますので、実質負担を小さくすることができるのです。法人で加入する生命保険で相続対策ができるとすれば、結果的に個人の資金効率も改善することになります。
次に「医療法人の事業承継を考える場合」ですが、持分のある医療法人の先生方は、持分評価も気になるところです。医療法人の相続財産としての持分の評価方法は、法人の規模などにより異なります。
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