医院開業コラム
FP佐久間のみらいマネー研究所 第6回
2018.02.01
前回は個人保険に加入する際に留意すべき点として、支払う保険料に対する所得税負担を考えました。
今回は、保険金を受け取るときの税金について考えてみます。
生命保険を受け取るとき、受け取った保険金や給付金がどのように課税されるのかご存知でしょうか。入院給付金や手術給付金のように、心身に加えられた損害に対して支払われる給付金は非課税で受け取ることができます(所得税法第9条第1項第17号、所得税法施行令第30条第1号)。
ところが、被保険者が死亡した場合の保険金や、上記の給付金であっても被保険者が死亡している場合の給付金は課税を受けることになります。
今回は被保険者が死亡した場合の保険金について見ていきましょう。生命保険の契約には登場人物が3人、「契約者(=保険料を払う人)」「被保険者(=保険の対象となる人)」「受取人(=死亡保険金を受けとる人)」が決められています。この登場人物の関係のことを「生命保険の契約形態」といいます。
実はこの契約形態をどのようにするか、もしくはどうなっているかによって、生命保険の実質受取額が大きく変わってきます。なぜなら、死亡時に受け取る生命保険の死亡保険金(以下、保険金といいます)は契約形態により税金の種類が違ってくるからです。では、どのような契約形態があり、どのような税金の対象になるのでしょうか?
まず、契約形態から見ていきましょう。以下の3パターンが代表的な契約形態です。
・パターン①:契約者と被保険者が同じ場合
・パターン②:契約者と受取人が同じ場合
・パターン③:3人とも別人の場合
受取時の税金の種類を、それぞれの契約形態ごとに表にしました。
ご覧のとおり、契約形態により税金の種類が違うことがわかります。また、相続税の場合は個人資産を含めた相続財産の合計額により税額が変わりますし、所得税の場合は収入と合算された額で税額が決まります。実際に保険金を受け取る際、契約形態を考えるにあたって受取の税金を考慮していなかったために多額の納税が発生し、予定していた資金使途を大きく割り込んだといったケースも発生しています。
次に、一般的に先生方の場合はどういった契約形態が一番多くの保険金を残せるのか、ケース別に確認します。
同じ保険金の額であれば、明らかに税率が高いものから見ていきます。保険金や満期保険金に贈与税が課せられる場合、金額が贈与税の非課税範囲(110万円以下)であれば非課税で受け取ることができますが、贈与金額によっては最大55%の税率が適用されるのです。つまり上記の表でいえば、パターン③は贈与税の課税を受けることになるので、金額によって税金負担が大きくなります。
そもそも、贈与税は高い税金であるとさまざまな場面でいわれており、わかりきった話でもありますので、保険加入時にあえてこの契約形態にする方はいないと思われるかもしれません。ですが、お打ち合わせの場で改めて保険証券を見てみると、この契約形態になっていたという人を実際に目にします。その場合には受取人を変えるなど早めの対策が必要ですので、お手元の保険証券を一度確認してみてください。
実際のコンサルティングの場面では、パターン①のなかでも「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の契約形態の証券を見ることが圧倒的多数です。このパターン①の契約形態では、表のとおり「妻」が受け取った保険金は相続税の対象となります。受取人が指定されていますので、遺産分割する財産(民法上)には含まれませんが、死亡に伴って発生した財産として、夫の相続財産の額に合算して相続税の課税対象となります(みなし相続財産)。
日本の相続税は、保険金などのみなし相続財産を含めた全相続財産を基準に相続税を計算しますので、この契約形態の場合は保険金額の大小以前に、お亡くなりになられた方の相続財産の大小により税額、つまりは受取金額が変わることになります。現在の相続税の最高税率は55%ですので、財産の額によっては最大55%の相続税がかかる可能性があるということです。
ただし、相続税の計算時には基礎控除があります。ご自身の保有資産や契約形態により、有利なケースはさまざまです。どのパターンが有効なのか、下表の相続税率を考慮しながら確認していきましょう。
(相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人数)
相続財産がこの基礎控除の範囲であれば、相続税は非課税となります。そのため、税率が許容できる範囲の場合などはパターン①の契約形態が有効です。先生方の加入されている生命保険にもこのパターン①の契約形態が多く、自分の場合はどうしたら良いか?という相談に多数出会います。しかし、診療所を経営されている先生方は相続税の課税対象となる保有資産が高額の場合があり、パターン①の契約形態ですと税額が高くなることがありますので注意が必要です。
ただし、この場合でも生命保険金には非課税枠(500万円×法定相続人数)があり、この金額までは課税されません。医療法人などを経営されている先生方は法人からの死亡退職金も同額が非課税となり、また一定の弔慰金も同様に非課税となります。つまりは保険金額が非課税の範囲であれば、パターン①の契約形態が有利といえます。
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