医院開業コラム
クリニック人事労務読本 第3回
2018.02.26
第3回となる今回のテーマは「医療従事者の退職金水準」です。
ここでは退職金の定義から解説してまいります。
まず、退職金の性質として広くいわれているものには以下の3つがあります。
(1)功労報償説
在職中の貢献度に応じて恩恵的に支払われるとする説
(2)賃金後払い説
従業員側からの主張を強く反映した説であり、退職金は事業主から恩恵的に支払われるものではなく、従業員が在職中に積み立てたもので、退職時に追加的に支払われるとする説
(3)退職後の生活保障説
退職後の生活を保障するために支払われるとする説
このように退職金の性質としては諸説あり、どれが正しいかという議論をここでするつもりはありませんが、クリニックにおいては一般的に(1)の功労報償説を前提に支給しているケースが多いといえます。よって、ここでは(1)の功労報償説による退職金支給を検討していきます。
退職金は第2回で掲載した賞与と同様、就業規則等で支給の確約をしている場合を除きその支給義務はなく、支給をする場合においても支給額については事業主側に裁量権があります。そのため、仮に20年間勤めた職員への退職金が支給されなかったとしても違法ではないのです。実際、当事務所のデータに基づけば、退職金制度を設けているクリニックは次表のようにかなり少ないといえます。
ただし、上記はあくまで「退職金制度を設けている割合」であり、実際には制度を設けていなくても退職金を支給しているクリニックは少なくありません。では、わざわざ支給義務のない退職金について就業規則を設けて支給したり、または就業規則がないクリニックにおいても退職金を支給したりする理由は何なのでしょうか。
第一に、求人時における他院との差別化です。当然ですが、ほぼ同じ労働条件の2つの求人募集があり、一方が退職金制度あり、他方が退職金制度なしという場合においては、求職者は前者を選択するでしょう。よって、求人募集要項に「退職金制度あり」と記載することで求人募集を有利に進めることができます。
第二に、スタッフのモチベーション維持と定着率向上です。前述の通り、20年間勤めた職員であっても退職金の支給義務はありません。ただ、そのスタッフに退職金が支給されなかったという事実を耳にした場合に、ほかの在職スタッフはどのように感じるでしょうか。一般的には、在職しているクリニックの在り方に疑問を持つのではないでしょうか。
自身が将来退職する際においても同様の境遇となることを想像すると、ほかのクリニックへの転職を考えても不思議ではありません。よって、スタッフのモチベーションや定着率に重点を置くのであれば、やはり退職金の支給は欠かせないといえます。
第三に、在職中にクリニックに貢献してきたスタッフに対しての感謝の気持ちです。実際に退職金制度がないクリニックの先生からも「あのスタッフは在職中本当に頑張ってくれたから退職金を支給したいのだが、どの程度が相場なのか?」と相談を受けることが少なくありません。
さて、ここからは退職金の水準について説明します。当社で給与計算代行をしているクライアントにおいての退職金について、職種別に平均値を算出すると以下のようになります。
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