医院開業コラム
開業医のための「医院経営相談外来」 Q.7
2016.06.09
「クリニックに利益が出ているのに、お金が貯まらない」というケースはよくあります。以前に本コラムの第5回では、手元に残るお金の構造を計算式やブロックパズルを用いて解説しましたが、今回はその原因となる「税金、借入金の返済、設備投資」について少し詳しく触れてみたいと思います。
まず、クリニックに残るお金の額は、以下の計算式で概算することができます。
手元に残るお金=利益-税金-借入金返済元本-設備投資+減価償却費
つまり、手元に残るお金を増やすためには、税金、借入金の返済、設備投資に関して対策を行う必要があります。
個人でクリニックを開院した場合、患者さんが増えて利益が増えると、税金が多額になります。勤務医の給与よりも税額が多くなり、驚いている先生もいるのではないでしょうか。税金が多額になる理由は、個人の税率が高いからです。現在の個人の税金は、課税所得が1,800万円を超えると所得税・住民税の合計で約51%、4,000万円を超えると約56%の税率となっています。
個人クリニックでの節税対策には限界があります。個人事業主の退職金制度である小規模企業共済や国民年金基金・確定拠出年金は経費になりますが、それぞれ月に7万円、6万8千円が上限となります。また、専従者を多人数にして給与を支払うことは事実上難しいので、所得の分散を行うことも困難です。
税金を抑える対策としては、医療法人を設立することが有効です。医療法人を設立すると、税率を低く抑えられます。また、理事に報酬を分散し、生命保険を経費にするなど、節税対策の幅が広がります。
しかし、医療法人の設立について否定的な考えを持っている方が少なからずいます。大きな理由の一つとして、現在は「持分のない医療法人しか設立できず、解散するときの残余財産は国や地方公共団体などのものになってしまう」ということがあります。これは事実ですが、このためだけに医療法人を設立しないのは、もったいないことです。持分のない医療法人でも十分メリットを出せる可能性がありますので、その活用方法など情報を集めて多面的に検討することをお勧めします。状況によっては医療法人を設立しない方が良いこともありますので、十分な検討が必要です。
クリニック開院時の借入金返済が、お金の不足を招くことがよくあります。数千万円から1億円を超える借り入れをすることもあるので、その返済の負担は大変大きなものです。借入金を返済しても、その元本部分は経費にはなりません。借入金は税金を払った後に残ったお金の中から返済することになるのです。つまり、税金と借入金の返済のタブルパンチでお金がどんどん減っていくことになります。
返済が厳しくお金が不足しがちな時には、その返済期間を延ばすことを検討してみましょう。まずは現在の取引金融機関に相談をしてみましょう。相談に乗ってもらえない時には、他の金融機関から新たに借り入れすることも検討してみましょう。
返済期間を延ばすと金利を多く支払うことになるので嫌だという人がいますが、お金が不足しては経営を継続することができません。この対策はあくまでも目の前の課題に対する対症療法で、根本的な課題の解決をするものではありません。対症療法を行った後には、根本の原因を明らかにして、解決しなければなりません。後々、資金の余裕ができたら、借入金の早期返済を検討すれば良いのです。
クリニック開院時や開院後に過大な設備投資をしてしまい、お金の不足を招くことがあります。一度買ったものは戻すことができませんので、多額の設備投資をする時には、それが本当に必要なのかどうかを検討しましょう。
先ほど提示した計算式で、「その設備投資をすることでどれだけ利益が増えるのか」「お金がどれだけ多く手元に残るのか」を概算してみましょう。特に借入金で設備投資をする時には注意が必要です。土地は購入しても経費になりませんし、建物は減価償却期間が長く、経費化するのに長い期間が必要になるので、要注意です。また、不要なものを購入してしまった場合などは、損を覚悟で売却するという選択も検討する必要があるかもしれません。
これまで、手元にお金を残す方法についてお伝えしてきましたが、最も根本的な対策は「患者さんに来てもらい、利益を上げる体制を作ること」です。利益が上がらない限り、お金が貯まることはありません。
利益は「売上-経費」で表されます。
利益を増やすためには、売上を上げるか経費を下げるか2つの方法しかありません。そして、売上を上げる方法は、患者数を増やすか、診療単価を上げるかの2つの方法しかありません。どのような方法で利益を上げることができるのかを考えて実行することが、お金を貯めるための根本的な対策なのです。
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