医院開業コラム
ビジョンを具現化するクリニック創りの羅針盤 緊急寄稿
2022.02.14
2021年12月17日、大阪府西梅田のビル診療所にて放火事件が発生しました。お亡くなりになられた方々、そしてそのご関係者の皆さまに、哀悼の意を表します。
あの忌まわしい事件を受けて、私どものもとにも、クリニックの経営者やご開業を検討されている多くのドクターから「あのような事件を防ぐ方法はあるのか?」といった問い合わせをいただいています。そこで今回は、緊急寄稿にて本事件を紐解きたいと思います。
今回の放火事件については、さまざまなメディアで注目のニュースとして連日取り上げられ、消防法にも触れながら対策が盛んに議論されてきました。しかし、私としては「入り口の部分から論点がずれているのでは?」と感じることが多くあります。なぜなら現在の消防法は、放火などの悪意による火災の予防について、そもそも想定していないと考えられるからです。
消防法第1条には、その目的について『この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする』と明記されています。ここでいう『火災』は、今回の事件のような悪意のあるガソリン火災を想定していません。そもそも法概念として、放火はハイジャックと同様の重犯罪の扱いとなっており、で裁かれるもの。つまり、西梅田の事件の予防について消防法の観点から対策を考えるのは、現状ではあまり建設的とはいえないでしょう。
ガソリン火災は、例えばてんぷら油による失火など、その他の火災と特徴が大きく異なります。ガソリンは揮発性のある危険な油であり、床に広がって引火すると、その直径寸法のほぼ4倍の高さにまで火柱が上がります。さらに、揮発したガソリンはエアコンなどの気流に乗り、天井から各室へと燃え広がりながら、急速に一酸化炭素中毒の原因となる黒煙へと変化していくのです。
西梅田の放火事件を受け、一部の報道では「スプリンクラー設備があれば被害を縮小できたのではないか」といった指摘も聞かれました。しかし、スプリンクラーの初動は火災感知から若干遅れることが一般的であるため、急速に火が広がるガソリン火災(かつ、放火と同時に犯人による悪質な閉じ込めが行われた)では有用ではなかったのではないかと私は考えています。
ここまで読んで、「ガソリン火災に対しては手の施しようがないのか」と感じられている方は少なくないでしょう。しかし、何もできないかというと決してそうではないと私は考えています。
【対策1】非常時のための消防訓練の実施(非常時の役割分担を決めておく)
私たち人間は、非常時には頭が真っ白になり、動きが止まってしまうもの。そんな状況下でも身を守るためには、以下の3つの点が重要になります。
具体的に考えていきましょう。火災発生時には、その発生原因や場所の特定とともに
①消防への通報
②初期消火活動
③避難誘導
④安全確認
が必要になります。クリニックにおいて、例えば受付(会計)は消防への通報、受付(受付)は避難誘導、看護師は初期消火活動をするなどといったように非常時オペレーションを普段から明確にして訓練しておけば、火災に限らずいかなる非常時にも有用です。
また、過去の事故や事件を検証すると、「避難経路上にモノが置かれていて逃げられなかった」という事案がいくつもあります。避難経路は“余った面積”ではありません。いつ起こるかわからないトラブルに備え、常に正しく確保するよう、建物全体での取り組みが必要になります。
そして非常時には、選択肢があればあるほど判断の遅れにつながります。前述のように各人の役割を事前に明示したり、避難ルートを出火場所別にきちんと整理しておき、「入り口付近で出火があった場合はAルート、スタッフルームからの出火はBルート」といった形でシンプルに判断できるようにしたりするといいでしょう。
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