医院開業コラム
事務長 解体新書(アナトミー) 第7回
2019.11.26
前回は事務長の報酬と評価についてお話しました。今回は、実際に事務長を導入するタイミングについてお伝えいたします。開業医の先生はもちろん、これから開業する先生にもぜひ読んでいただきたいです。
本コラムの第1回でお伝えしましたが、全国のクリニックの99%が事務長を設置しておりません。なぜなら、最初はクリニックの設計や集患のための販促、設備、スタッフ採用などに意識が向いているからです。事務長がいなくてもクリニックは開院できるので、開業コンサルや開業マニュアルのようなものに、事務長は含まれていないのです。
医師は優秀だからこそ自分で何でもできてしまい、すべて自分でやりたくなってしまう方が多くいます。しかし、時間は有限です。「何かをしているとき=他の何かをしていない」ことになるため、スピードが遅くなってしまいます。また開業当初は、医師は経営について知識・経験が十分ではないことがあり、さまざまな問題を抱えることも少なくありません。その結果、本来「院長=経営者」としてしなければならないことが遅れる、またはできなくなってしまうのです。
また、開業前は「医業収入は2ヶ月後から振り込まれること」や「どれくらいの集患になるかが見通せないと事務長を雇用できない」などと考えるかと思います。経営に響くほど無理をしてまで、事務長を最初から導入する必要はありません。しかし、細かな業務や院長でなくてもできる業務、期待する仕事を依頼することで院長の負担が減りますし、時間を有効活用できるようになってから事務長を設置することも可能です。
私が知っているクリニックでは、開業時から事務長としてスタッフを設置していました。このクリニックのように、開業時から事務長に経営業務のサポートやスタッフマネジメントをお願いすることで院長としての業務に集中でき、クリニックやスタッフの成長が早まることもあるのです。事務長の導入にあたり、以下のタイミングが考えられます。
1. 分院ができるタイミング
単院運営をしていると、常に院長はクリニックにいるので院内に目が届きます。開業時には開業準備をする時間があったために、院長自身で対応することができました。しかし、分院展開をする際は、院長は診察をしながら分院準備を進めなくてはなりません。
現地の確認や必要な物の手配、販促物の準備、スタッフの教育などは、診療を終えてからか休みの日にしかできなくなります。また、分院が開業した後も院長が両方のクリニックを一度に見ることはできません。分院を開設することが決まった段階で事務長を設置することにより、院長が診察を行っている間に事務長が開院準備の対応できます。開院後も分院長やスタッフのケアなど、院長が気にすることを事務長が対応することで、より時間の有効活用ができるのです。
2.新しい取り組みを始めるタイミング
先生が診療以外で講演活動や執筆など新しい取り組みを始める際に、まったくこれまで挑戦したこともないことについて調べたり、外部とコンタクトをとったりするのは多くの時間が必要です。しかし、診療やスタッフマネジメントなどを行っていると、とりかかる時間は限られてきます。しかし、事務長にクリニック運営の一部を任せたり、事務長が新しい取り組みについて理解・共感できたりするのであれば、スピードを上げて取り組むことも可能です。
私自身も、「医療法人 梅華会」の中で梅岡が主宰する開業医コミュニティ(M.A.F)の運営や出版活動において、出版社との折衝や講演会の手配など多岐にわたる業務を行っております。これを梅岡が一人で行うことは、実際難しいかと思います。運営や手配などは梅岡でなくともできるからこそ、院長がよりコアな業務に集中する環境を作ることが、事務長の役割でもあると考えています。
事務長の採用で気を付けなければならないのは、「事務長はすぐには見つからない」という点です。上記のようなタイミングなどでいざ事務長を採用しようと考えても、これまでお伝えしたように院長が事務長に求めるものを明確にしなければ、1つの仕事を事務長に依頼して、ただそれを終えるだけです。これでは、事務長でなくともアウトソーシングで事足りてしまいます。
また、院長の想いに共感したり、責任感を持ってクリニックで成し遂げたいことが決まっていたりしなければ、事務長としての役割をまっとうすることはできません。採用には半年~1年くらい要すると考えると、常に事務長に依頼することを考えておくとよいでしょう。
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