医院開業コラム
事務長 解体新書(アナトミー) 第1回
2019.05.21
全国に約10万件あるクリニックの99%以上は、院長以外にクリニック経営を担う「事務長」と呼ばれるスタッフを設置していません。事務長と聞くと、総合病院や大学病院で総務の仕事を取りまとめているスタッフ、といったイメージがありますが、クリニックにおける事務長とは“院長と共にクリニックの経営を行うスタッフ”のことを指します。
医師は医学部へ入学してから研修医を経て、大学病院や市中病院で勤務し「いつかは開業したい」と考える割合が少なからず一定数あります。しかし、そのときに事務長と呼ばれるクリニック経営をサポートするスタッフのことは、毛頭考えていないのが現状であり、それが当たり前なのです。事務長の必要性を開業前から気付いている院長は、ほとんどいません。
大きな夢を見て開業される院長には、開業後、軌道に乗っているクリニックがより継続して成長し、スピード感を持って新しい取り組みを実行していくために、ぜひ「クリニック事務長」の設置をオススメしたいと思います。では、これからクリニックの事務長について詳しくお伝えしていきましょう。
勤務医から開業医、経営者となった医師は、主に診療(医療)についてはプロフェッショナルです。しかし、クリニックの経営は、採用面接やスタッフ面談などの人間関係構築からトラブルや業者対応まで、診療以外にも行わなければならないことがたくさんあります。にもかかわらず、勤務医時代にこれらのことを学ぶ機会はほぼありません。それでも日々目の前で起こることを対処していかなければ、クリニックを継続して運営していけないのです。
クリニックが開業したばかりの頃は、院長と数名のスタッフでスタートします。そこから次第に患者さんやスタッフが増えていく中で、院長は人間関係の問題やクリニックまたは院長に対する不満など、すべての意見や相談を受けることになります。院長は朝の準備から始まり、午前の診察後の業者面談やスタッフとの定期ミーティング、さらには午後の診察後の経営業務やセミナーへの参加など、すべての業務を一人で対応しなければなりません。
「先生、パソコンが動かなくなったのですがどうしたらいいですか」
「先生、勤怠のことなのですが残業代が入っていません」
「先生、なぜこの仕事をしなければならないのですか」
「先生、患者さんがクレームを言っています」
「先生、仕事を辞めたいです」
一日トイレに行く時間もなく、外来の診察を終えた後でスタッフからこんな相談をされたらどうでしょうか。しかし、これらは現実に開業医の先生が常に言われていることなのです。
院長はドクターとして非常にスキルが高い方が多く、院長兼事務長として活躍されている場合が多いでしょう。だからこそ、院長とスタッフの間には大きなギャップがあります。プレイングマネージャーとして何でも一人でできてしまうために、すべて抱え込んでしまい、かえって物事が進まなくなるのです。
院長は医療にかかわることなら、これまでの知識や経験から答えを出すことが得意なのに、人事(人間関係)やお金のこと(融資)、集患(マーケティング)などになると、初めてのことばかりで答えの引き出しを持っていないのです。
だからといって、看護師などのスタッフに相談することは難しく、また、開業すると横のつながりがなくなるため、他のクリニックの院長に聞くこともできません。もちろん、そんな時間さえなかなか取れない院長もいるでしょう。
院長としては「スタッフ自身で考えて解決してほしい」と願っているかもしれませんが、スタッフはそこまで責任を感じていない場合が多く、院長を頼っています。これは「立場が違うから見え方が違う」のであり、どちらに非があるわけではありません。
例えば、スタッフの考えとして以下のようなものがあります。
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