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翔和仁誠会流の分院展開戦略 ~勝利のための10ラウンド~

翔和仁誠会流の分院展開戦略 ~勝利のための10ラウンド~ Round 1

分院展開は「オイシイ」経営戦略か?

  • 医業承継

2020.02.26

昨今、「分院展開」に対して開業医の先生方の関心が高まっているようです。私の医療法人では現在15院を運営しており、積極的に分院展開をしているほうだとは思いますが、医院経営においては、正直ニッチなテーマと認識しておりました。昨年ご縁があり、分院展開戦略をテーマとしたセミナーの講師をお引き受けすることがあったのですが、100名を優に超える先生方で埋め尽くされた会場の光景や、熱心に聴講されている先生方の表情、そして講演後にいただいた数多くの実践的なご質問から、このテーマに対しての関心の高さを肌で感じることになりました。

ではなぜ今、分院展開が注目されるのでしょうか。私自身は33歳で本院「たかまつ耳鼻咽喉科クリニック」を開業しました。開院から約2年後に経営が軌道に乗ってきたときに、これから40年間同じことをし続けるのかといった、ある種マンネリに対する恐れのような感情が生まれたことを今でも覚えており、多くの開業医の先生方が私と同じようなマンネリに対する恐怖感を抱かれているのではないでしょうか。

また、最近は経営感覚に優れた開業医による執筆や講演活動、メディア露出が増え、医師としてだけではなく、経営者としての役割・評価も求められるようになってきたと思います。さらに、これまでの開業すれば儲かるというブルーオーシャンから競争激化時代の到来、行政による医療費抑制といった将来リスクなど、医療経営環境の変化も要因としてはあることでしょう。分院展開には経営のダイナミズム体現や規模の経済性などのメリットがありますので、成長戦略のひとつとして、分院展開をお考えの先生方が増えてきたのかもしれません。

このコラムでは、当医療法人が培ってきた分院展開の経験やノウハウを連載方式で開示させていただきますので、これから分院展開に挑戦しよう、またはすでに奮闘されている開業医の先生方に有益な情報としてお伝えできれば大変うれしく思います。サブタイトルは勝利のための10ラウンドとなっておりますが、実は私は医学生時代にプロボクサーをしておりましたので、全10回の連載をこのようなテイストで表してみました。連載の過程で現在予定しているテーマ以外にもお伝えしたいものが出てきましたら“Extra Round”としてお伝えできればと思います。

分院展開のメリットとデメリット

はじめに、分院展開のメリットについて考えてみたいと思います。まずは、拠点が増えることで売上自体を増加させることができます。そして、分院の運営をうまく行うことができれば、利益を増やし、所得も増加させることが可能でしょう。新規開業では経営を軌道に乗せるまでが大変ですが、分院展開ではスタッフの管理や集患など、すでに本院の運営で培った成功ノウハウやスキームがありますので、それをダイレクトに分院に活用することで省力化も可能となります。

また、分院展開を行うことにより、スケールメリットを出すこともできるようになります。このスケールメリットは医薬品や消耗品、検査費用がディスカウントできることはもちろんですが、スケールメリットとして一番大きいのは人材確保についてだと思います。人材不足の現在において人材確保は非常に重要な経営課題ですが、1つの広告で複数のクリニックの採用活動が行えたり、優秀なスタッフ同士で相性が悪く、退職の申し出があった場合でも別の分院に異動させたりするなど、人材のロスを低減させることが可能となります。

さらに、理事長自身も、マネジメントという仕事を通して「社長の喜び」的なやりがいを感じることができるでしょう。ご存知の通り、開業医は孤独です。分院長などの仲間、チームができることで、孤独感や閉塞感から解放されるかもしれません。診療は自分一人だけであとはコメディカルばかりだと、診療のアイデアも固定化されてしまう傾向がありますが、優秀な分院長などの新しい血が入ることで新たな臨床知識の獲得や、スキルアップにつながる利点もあります。また、クリニックに他のドクターの視線があることで「見られる」ことを意識しますので、これがパフォーマンスの向上につながります。私自身、医院見学や新人のドクターがくると、かえって普段よりも質の高い外来ができることがあります。人に見られることは、自身のパフォーマンスを上げるうえで意外と重要かもしれません。

では、分院展開のデメリットはどうでしょうか。当然ですが、分院の経営がうまくいかないというリスクが常に存在しています。分院長に対する患者さんの評判が良くない場合には赤字になってしまい、本院でせっかく稼いでも分院の赤字を補填しなければならず、意味がなくなってしまいます。また、分院長が急に退職してしまうというリスクもあります。この場合、次の分院長が見つかるまでは診療ができないので売上はなくなりますが、売上がなくても賃料などの経費は支払わなければなりません。そして、後任の分院長を見つけられずやむなく閉院ということになれば、内装や医療機器などへのこれまでの投資は回収不能になってしまいます。

さらに、理事長にかかるストレスもデメリットといえるかもしれません。分院展開の初期は、理事長はプレイングマネージャーであることが多いと思います。この場合、日中は診療を行い、診療終了後にようやくマネジメント業務を行う時間が取れますので、拘束時間は開業医時代に比べて当然長くなります。また、分院での診療やスタッフ管理など、他人に任せなければならないことが出てきます。自分なら難なくできることも、他人に任せるとなかなか自分の思い通りにいかず、ストレスもたまってきます。

 

「倍々ゲーム」ではない分院展開の現実

分院展開を検討する多くの先生方は、分院が増えれば増えるほど「倍々ゲーム」で儲かると考えます。しかし、答えはノーです。分院展開は「倍々ゲーム」で儲かるどころか、大きなリスクをはらんでいます。現在でこそ15院を展開していますが、実は私も分院展開ではいくつかの「しくじり」を経験しております。しかし、この失敗があるからこそ、成功パターンが見えてきたといっても過言ではありませんので、2つのケースをご紹介したいと思います。

Case1:他沿線 耳鼻咽喉科クリニック]
まず1つ目の「しくじり」ですが、開業後3年目には本院が安定してきまして、大学時代の親友2人を分院長に招聘し、2つの分院を出しました。そして、初めての分院2院とも開院早々にうまく軌道に乗せることができましたので、当時の私は経営者としても一人前だと天狗になっておりました。そして、そのタイミングで、承継クリニックの話が舞い込んできます。この承継案件は、これまでメインとしていた京王線とは異なる他沿線ではありますが、同じ耳鼻咽喉科で、しかも分院長もすでにいるということでM&Aを決めました。

しかし、継承後、想定外の事態が発生します。分院長はこれまでも院長として診察していますので、彼女なりのやり方が確立していました。しかも、出身医局も異なり、診療方針も異なる場面が多々ありました。そのため、度々意見が対立していましたが、こちらも若く未熟でしたので、寛容さも足らずに徐々に軋轢が生まれてしまいます。また、他沿線であったため管理も大変で、密なコミュニケーションが取りづらいこともマイナスに作用しました。

そして継承から3年後、分院長から退職の申し出がありました。たまたま医局の後輩がこのエリアでの開業を希望していたので、残っていたリース契約を引き継いでもらう形でロスカットでき、この分院からは撤退となりました。しかし、3年間で4,000万円の累積赤字となったのは、苦い経験です。このコラム連載の後半に「初期の分院展開」における成功パターンについて説明する予定ですが、分院展開初期における「同窓生・同性の分院長」や「同じ沿線での分院展開」といった、リスク最小化への気づきを得ることになります。

Case2:同沿線 小児科・整形外科クリニック]
先ほどの「しくじり」で懲りずに、私はその後3つの分院を開設します。これらの分院長には異なる医局の医師を採用したのですが、Case 1の失敗経験を活かすことでうまく軌道に乗り、今度こそ本当に一人前の経営者になれたと天狗になっていました。このとき、開業からおよそ10年が経過していました。

その頃に挑戦したのが、京王線の調布駅近くに計画された医療モールでした。まず物件ありきの話で、200坪を埋める必要があったことから、耳鼻咽喉科を含めた3つの診療科で分院を出店することを決意します。耳鼻咽喉科以外の設置科目については、耳鼻咽喉科とシナジーがあり、しかもこれまで分院展開の経験のあった小児科にすることをまず決めました。しかし、耳鼻咽喉科と小児科では200坪の面積は広すぎます。そこで、残りの大きな面積を埋める科目はないかと思慮したところ、リハビリなどで大きな面積が必要となる整形外科が思い浮かびました。

こうして耳鼻咽喉科、小児科、整形外科の3科目で分院を出店したのですが、小児科と整形外科については、完全に分院長の人選ミスをしました。面接の際に「これはちょっと……」と感じていた不安が的中します。分院長はコミュニケーションがうまくないタイプの医師でしたので、患者さんが集まりません。しかも、耳鼻咽喉科医の私は他科の診療内容について深いところまで口を出すことができませんでした。また、駅近くの物件でしたが、入口の視認性が悪く、集患しにくい立地でもありました。

それから3年後、小児科と整形外科の分院長から「私たち辞めます」との申し出が……。他科のため後継の分院長についてもコネがなく、なかなか見つけることができませんでした。結果、閉院となり総額1億円の赤字となりました。その後、耳鼻咽喉科は視認性の高い駅前ロータリーの物件に移転し、大繁盛に至っています。私はこのしくじりで、「他科」による分院展開のリスクを再認識することになります。

 

このように、私自身も分院展開では大きな「しくじり」をいくつか経験してしまいましたが、幸い失敗から学んだ教訓を次に活かすことでKOには至らず、現在に至るまで何とか戦い続けることができております。このように、「オイシイ」だけでは決してない分院展開ですが、一方で経営にとっても、一人の医師・人間としても得るものが多い経営戦略であると思います。

しかし、当然のことですが、すべての先生方に分院展開をお勧めしているわけではありません。それは本院を盛業させる「院長」と、分院展開を成功させる「理事長」には異なる能力・資質が求められると考えているからです。次回は、このテーマについてお伝えしたいと思います。

※このコラムは、2020年2月現在の情報をもとに執筆しています。

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執筆者紹介

高松 俊輔

高松 俊輔
(たかまつ しゅんすけ)

医療法人社団 翔和仁誠会 理事長

国立山梨医科大学(現山梨大学)卒業後、東京大学耳鼻咽喉科学教室に入局。国立東靜病院、都立府中病院、都立神経病院、社会保険中央総合病院などを経て、文部科学教官助手として東大病院に赴任。同病院では一般外来の他、鼻の専門外来、レーザー治療、顔面神経の専門外来を担当し、診察、手術、研究、後進の指導に従事する。2002年3月に東京都多摩市にて「たかまつ耳鼻咽喉科クリニック」を開院。2004年8月には「医療法人社団 翔和仁誠会」を設立し、理事長に就任。現在、京王線沿線を中心に東京・神奈川において耳鼻咽喉科、小児科、内科、皮膚・泌尿器科クリニックを運営。2019年11月には14院目となる西東京初の民間サージクリニック「東京みみ・はな・のど サージクリニック」を、2020年2月には15院目の「そよかぜ内科」を開院するなど、積極的に分院を展開。また、中国・上海での定期的な出張診療を行うなど、活躍の場を海外にも拡大している。

医療法人社団 翔和仁誠会のWEBサイトはこちら

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