医院開業コラム
クリニック経営者のための医療ICT活用メソッド 第1回
2018.06.14
診療所におけるコンピュータの活用は、1970年代に生まれたレセプトコンピュータ(以下、レセコン)にさかのぼる。当時、レセプト(診療報酬明細書)は手書きであり、非常に煩雑な業務であった。レセコンの出現により、診療報酬を算定し、請求する仕組みが一気に効率化された。顧客管理台帳、今でいう「CRM」という考え方の基礎もこの当時に生まれている。
電子カルテは、レセコンの診療支援機能として1990年代に誕生した。このころから発生源入力という考え方が生まれ、カルテとレセプトを同時並行で作成するシステムとして、電子カルテが診療所のICT化の中心となった。そのような時代背景のもと、2000年代に入ると、電子カルテとレセコンを一体化したシステムが開発される。一方はレセコンのオプションシステムとしての電子カルテ、もう一方は電子カルテとレセコンのオールインワンシステムとしての電子カルテが誕生したわけだ。
また、2005年ごろに日本医師会の日医標準レセプトソフト(ORCA)が誕生したことで、新たな電子カルテの潮流が形成された。電子カルテのみを開発するメーカーが多数出現し、「ORCA連動型電子カルテ」という新たなジャンルが生まれた。2018年現在では、「レセコンメーカーの電子カルテ」「電子カルテ・レセコンオールインワン電子カルテ」「ORCA連動型電子カルテ」という3つの軸が存在し、40社を超えるメーカーがシェア争いをしている。
2010年に医療分野でクラウドコンピューティングが解禁され、それを契機にクラウド型電子カルテが出現した。当初は価格が高く、セキュリティ面や安定性という観点からも様子見の診療所が多く、クラウドタイプの電子カルテは敬遠されがちだった。
しかしながら2018年現在では、在宅分野でのクラウド利用が活発したことや、安価なクラウド型電子カルテが生まれたことで注目されてきている。今後は上位メーカーのクラウド型電子カルテが予定されており、その流れに拍車がかかることが予想される。
2018年現在、電子カルテの普及が4割を超えようとしており、新規開業では電子カルテが当たり前、既存のクリニックでも電子カルテを導入しなければ取り残される時代となった。そう考えると、レセコンから電子カルテへのリプレイスは避けられない時代の流れといえるのではないだろうか。これは、携帯電話がガラケーからスマホにシフトした流れを思い出せばわかりやすいだろう。
この流れに大きく寄与しているのは、大規模病院での電子カルテの普及が進み、医師になってから電子カルテしか知らない世代が増えていることが影響している。彼らにとっては電子カルテが当たり前であり、紙のカルテのほうがかえって面倒だと考えているためだ。この世代が増えれば増えるほど、診療所の電子カルテも増えていくこととなる。
近いうちにほとんどのクリニックが電子カルテを導入する時代となり、その結果、レセコンという概念がなくなるだろう。電子カルテの一部の機能がレセコンとなるため、「レセコン」という言葉そのものが消滅していくのではないかと思われる。
電子カルテとあわせ、診療所のICT化で導入されるシステムは年々増加傾向にある。画像ファイリングシステムや診療予約システムは一般的になりつつあり、最近では自動受付機や自動精算機といった、受付・会計をシステム化する動きも出てきた。また、2018年にオンライン診療が診療報酬で評価された流れを受け、オンライン診療システムも急速に診療所に導入されつつある。
そのほか、診療所の経営をサポートするシステムを総称して、「PMS(Practice Management System)」と呼ぶ動きも出てきている。さらには、患者さんとのコミュニケーションを高めるシステムとして、「PHR関連システム」も増えていくことだろう。
今後は、これらの様々なシステムが統一のプラットフォームでつながり、電子カルテ、レセコン、画像、予約、精算機、オンライン、PMS、PHRといったアプリケーションを選択するだけで導入できる時代がやってくるだろう。そのころには、電子カルテといった呼び名が一部の機能の名称となっている可能性が高い。
ここまで紹介してきたシステムはツールに過ぎず、システムに振り回されてはならない。あくまでも、便利なツールとして使いこなすことが大切だ。そこで、使いこなすためのポイントについて電子カルテを例に考えてみよう。
医師から「電子カルテはスタッフばかり楽になって、自分はまったく楽にならない」という苦情を聞くことがある。その理由は、電子カルテは医師しか触ってはいけないという思い込みから、レセコン時代であれば事務スタッフに任せていた業務まで医師が行っているためだ。このような状況では、医師の業務は増える一方で、電子カルテの導入効果が薄れてしまう。
逆に、医師だけでなくスタッフも電子カルテを操作する運用を行っている医療機関では、電子カルテに関する業務の負荷が分散することで、「電子カルテ導入前よりも楽になった」という声を聞く。導入当初の運用相談の段階からスタッフを巻き込み、電子カルテは“医師だけのもの”から“スタッフ全員のもの”という意識に変えることで、業務の「ワークシェアリング」が進むようになるのだ。
また、患者満足度を高めながらカルテの記載を充実したいというニーズは、多くの医療機関に見られる。これを満たす方法としては、医師の側に医療クラーク(医師などの事務作業を補助する専門職)を配置することが挙げられる。近年、医師の負担を軽減するために、病院を中心に医療クラークを配置する医療機関が増えてきており、この流れが診療所にも広がりつつある。医療クラークを置くことで診療効率が上がり、医師が診療に集中できる環境が整う。
システムは、上手に活用できて初めて導入効果を実感できるのだ。“システムを使いこなす”という視点は、診療所のICT化において忘れてはならない視点である。
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