医院開業コラム
クリニック人事労務読本 第4回
2018.05.09
連載第4回以降は「従業員の労務管理」について、計7回にわたり解説してまいります。掲載テーマは以下のとおりです。
(1)雇用契約
(2)服務規律
(3)労働時間・時間外設定
(4)有給休暇
(5)産休・育休
(6)就業規則・労使協定
(7)解雇
今回は(1)雇用契約についてお話します。稀に「雇用契約書を取り交わしていないから給与額を変更しても大丈夫だよね?」と質問をされることがありますが、これは大きな間違いです。雇用契約においては、原則として書面による明示(雇用契約書・労働条件通知書等)が義務となっておりますが、たとえ採用時の口頭による提示であっても、雇用者と労働者の両者が内容に合意していれば労働契約は成立しているとされ、その労働条件は有効となります。
しかしながら、書面による契約を取り交わしていないために、後になって「言った言わない」の話からトラブルになることが多々ありますので、雇用契約書を取り交わすことは実務的にかなり重要であるといえます。また雇用者としては、労働者に雇用契約内容をしっかり理解した上で合意してもらわなければなりません。というのも、労働者自身が雇用契約内容の詳細を確認せずに雇用契約を結ぶケースが多く見られます。
実際にあったケースですが、月給20万円・終業時刻20時という求人募集広告を見て応募してきたのにも関わらず、いざ働き始めてから「給料が安くて生活が苦しいから給料を上げてほしい」「仕事が終わるのが遅いから18時には上がりたい」などの要望をしてきた労働者がいました。もちろん、雇用者はこの要望に応じる法的な必然性はありません。本来、労働者は「当初の雇用契約内容を遵守して労働する義務がある」ということを理解していて当然なのですが、雇用者はこうした当然の事実を理解しないで職務に従事している労働者がいることを念頭におく必要があります。
また雇用契約時に限ったことではありませんが、雇用者を悩ませる労働者の質問に「友人が働くクリニックでは〇〇手当が支給されているのに、うちのクリニックにはこうした手当はないのでしょうか?」というものがよくあります。具体例としては、住宅手当や日曜出勤手当、駐輪場代の支給などです。
まずは、下の図をご覧下さい。
住宅手当、日曜出勤手当、駐輪場代の支給はB医院の「アドバンテージ」であり、同時にA医院の「ウィークポイント」に該当します。
上記だけを見て比較するならば、B医院の労働条件にアドバンテージがあることは明白です。十人が十人、就職するならばB医院を選択するでしょう。しかし、次の図の場合であれば、間違いなく労働者は全員A医院を選択するのではないでしょうか。
この記事をシェアする