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開業医のための「医院経営相談外来」

開業医のための「医院経営相談外来」 Q.10

医療法人の経営が順調に推移しています。分院や介護施設などの展開を考えるにあたって、気をつけなければならない点を教えてください。

  • 法人の活用

2016.09.06

まずは、分院や介護施設を開設する目的を明らかにしましょう。その上で、今後の医療法人の経営にとって必要であれば、開設を検討しましょう。分院の開設には様々なリスクが伴います。周りのすすめで気軽に行うのではなく、明確な目的を持って、自分の意思で判断をするようにしましょう。

検討時のポイントは大きく2つあります。1つ目は、分院開設当初の赤字を医療法人全体でカバーできるかどうかなど、お金に関すること。2つ目は、その施設のトップにふさわしい人材がいるかどうかなど、人に関することです。

検討ポイント1:お金について

先日、クライアントから以下のような質問をいただきました。
「ある医療情報サイトで、たまたま倒産の記事を目にして怖くなりました。ある程度の売上があっても倒産してしまう原因は、一般的には無理な設備投資にあるのでしょうか?」
このサイトには複数の倒産に関する記事が書かれていました。その原因は様々ですが、その中に「分院展開の失敗」がありました。多くの分院を展開したものの、業績が思うように上がらず、借り入れの返済に行き詰まり倒産に至ったようです。

東京都郊外の医療法人で業績が向上し、多額の利益が出るようになりました。そこで後輩のドクターに声をかけ、自分の専門分野とは全く異なる、自由診療のクリニックを都心に開設することになりました。医療機器や内装などに多額の設備投資が必要なので借り入れをしましたが、実際に開院したところ、思うように来院患者が増えず、赤字が続きました。本院の黒字でその赤字を補填していましたが、借入金の返済が多額のため、医療法人の経営が窮地に陥り、一時は銀行からの追加融資も困難な状況になりました。

何とか持ちこたえ、賃貸契約期間の10年が切れるのを機に分院を閉院しました。これでやっと正常な経営に戻ることができました。現在はクリニック一つを経営していますが、これまでに投資したお金や設備は莫大なものでした。それにも増して、理事長のストレスは大変大きなものだったと思われます。

医療法人の手元に残るお金は以下の計算式で概算することができます。
医療法人に残るお金=利益税金借入金返済元本+減価償却費設備投資+借入金

先ほどの倒産記事の例では、利益がマイナスで借入金の返済が多額になり、銀行から追加の借入れもできず、お金が不足して倒産に至ったと思われます。後者の倒産を免れた例では、分院の赤字を本院の利益でカバーし、返済を継続することができたのですが、倒産の危機も感じられる状況でした。

分院開設を検討するときには、この計算式で本院の現状と分院の計画をあわせてお金がきちんと回るのかどうかを計算してみてください。分院の計画は厳し目に作ることが重要です。とくに、開設当初は赤字になることが多いので、詳細な月次計画を作ることをおすすめします。

検討ポイント2:人について

あるドクターから、「分院の院長先生が思いのほか働かないので、利益が出ず困っている」という相談を受けました。分院長をどのように採用したのか聞いたところ、「分院開設に良い場所があったので賃貸契約をして、その後に公募して採用した」との答えが返ってきて驚いたことを覚えています。これでは上手くいく確率は低くなりますね。

分院の院長先生は独立した施設のトップです。「その分院の経営を行う」という意識を持った人物でないと、分院の経営が上手くいくはずはありません。公募で経営者意識を持ったドクターを採用することは困難です。公募に応ずるということは、雇われて働くという意識を持っているからです。

分院の展開はまず人ありきで考えてみてください。「この人がいるので分院を開設する」と考えるのです。分院展開をしようと考えるほどのドクターは、医師としてはもちろん、経営者としても優秀な素質を持っている方だと思います。自分がやれば簡単に上手くできてしまうような方です。しかし、分院の院長先生が自分と同じようにできるかどうかは別の話です。実際にやってみなければわかりませんし、上手くいかないことも想定しておかなければなりません。

また、分院長との信頼関係を築き、維持することも大変重要です。労働条件を明確にし、文書にしておきましょう。分院の売却など将来想定されることなどの詳細も明記しておくと良いですね。そして、分院を開設した後も定期的なミーティングを持ち、お互いの考えや課題などを共有し協力する環境を作ってください。これをしなかったばかりに、理事長と分院長が裁判で争うことになってしまったり、ある日突然分院長が辞めてしまったりといった事例が多いのです。

分院長は自分の重要な経営パートナーです。そのような気持ちで接していくことが上手くいく秘訣だと思います。

分院や施設の開設には様々なリスクが伴います。そのリスクを冒してまで行うのであれば、明確な目的が必要です。まず「自分はどのような医療を行いたいのか」が重要です。そして、そのために不足していることは何なのか、どのような施設や人材が必要なのか、お金はきちんと回るのか、マネジメントはどのようにするのか、などを考えてみてください。そこに無理があるのであれば、最初から自前で行う必要はありません。外部の施設や人と連携ができないか、検討してみてください。そして、経営の推移や人との出会いなどの環境の変化に応じて、その時が来たら行動すれば良いのです。

分院の開設は目的ではなく手段です。自分の目的を達成するための適切な手段を選ぶようにしてください。

 

※このコラムは、2016年8月現在の情報をもとに執筆しています。

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執筆者紹介

近藤 隆二

近藤 隆二
(こんどう りゅうじ)

医業経営コンサルタント
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会)
非営利団体 医業経営研鑽会・副会長
米国NLP™協会認定NLPマスタープラクティショナー

大手OA機器メーカーで12年、生命保険会社で12年勤務した後、医業経営のコンサルティングの仕事に携わる。「部分最適ではなく全体最適を考える」ことを貫き、さまざまな状況に応じたフレキシブルなコンサルティングを得意とする。コミュニケーションを密にすることで、それぞれのお客様にとって本当に良いことは何か、お役にたてることは何かを、常に考え続けている。
近藤隆二氏のホームページ「ドクターよろず相談所」はこちら

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