医院開業コラム
分院展開を考えるクリニックのための “医師採用力” 向上委員会 第4回
2018.09.25
「良い先生」に来てもらうためには、人材紹介以外にどんな方法があるのでしょうか?今回は、「人材紹介だけじゃない、医師採用手法あれこれ」と題して、クリニックの分院長採用における、人材紹介以外の手法を考えていきます。
歴史的に見ると、医師の仕事選びは大学医局の影響を強く受けてきました。現在でも32万人の有資格者のうち、およそ半数の51%が医局に所属しているといわれています。一般人材、例えばサラリーマンの転職市場と比べると、まだまだ医師の仕事選びは医局という特異な存在抜きには語れないのが実情です。
しかしながら、医師の人材紹介サービスが世に生まれてからおよそ40年。若手の医師を中心に、ネットや紹介サービスを利用して仕事(転職先・アルバイト先)を探すことが当たり前になってきました。特に最近は、一般人材の採用活動で「HR Tech(エイチアールテック、Human Resource × Technology)」と呼ばれる手法が急速に普及しており、毎年のように医師向け人材サービスにも新しい動きが起きています。
クリニックの分院長採用においても、この新しい動きを逃さずキャッチし、「良い先生」との出会いに活用していきたいものです。まずは、現在における医療機関向けの医師採用手法について、全体像を押さえておきましょう。
①自院サイト・法人サイト
クリニックや医療法人の公式サイトに採用情報を掲載し、メールやフォームで応募を受け付ける。このサイトへの集客にSEO対策(検索エンジン最適化)やSEM(サーチエンジンマーケティング)を行う場合も。直近では、Indeed(インディード)を活用したサイト集客が注目を浴びている。
②求人媒体(広告)
医師採用専門の求人媒体(雑誌、Webサイト)に採用情報を掲載し、電話やメールで応募を受け付ける。1~12か月間など一定の掲載期間があり、広告費・取材費・制作費と合わせて30~100万円かかる場合が多い。
③人材紹介、ヘッドハンティング
2018年現在、最も多く利用されている採用手法。人材紹介の場合、医師が入職してから年収の20%程度を紹介手数料として支払う。
(例)年収1,500万円の場合、手数料は300万円。ヘッドハンティングは着手金と紹介手数料がそれぞれ数百万円かかり、総額1,000万円程度になることもある。
④ハローワーク
数%の医療機関は公共職業安定所(ハローワーク)経由で医師を採用している。費用がかからないため、もし採用できれば最もお得な手法。
⑤リファラルリクルーティング(職員紹介、縁故)
すでに自院内で働いている職員の紹介や縁故で医師を採用する手法。近年は紹介した職員に謝礼を払うことで、紹介を促進する医療法人も増えてきた。常勤医師を紹介した職員に100万円の謝礼を払う法人も。
⑥ダイレクトリクルーティング(スカウト)
一部の医師求人サイトが医療機関から匿名の医師へアプローチする機能を搭載しており、少しずつ普及している。
これらの医師採用手法のほか、一般人材で定着しているサービスには以下のようなものが挙げられます。
・人材派遣
一部の例外を除き、医師、歯科医師、薬剤師の調剤、保健婦、助産婦、看護師・准看護師、栄養士などの業務は、派遣法により派遣就業が禁じられている。
・転職フェア
転職活動を秘密裏に行う医師が多いため、衆人環視の中でのフェアは成立しにくい。
・ソーシャルリクルーティング
FacebookやTwitterなど、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用して人材を採用する手法。医療機関と求職者の双方の情報が多く、マッチングの精度が高まりやすいが、医師採用への普及はこれから。
これだけ豊富な採用手法がありますが、必ずしもすべてが活用されている訳ではなく、採用担当者が知らないことも多いのが現状です。
実際の医師紹介の現場では、こんなケースがありました。
× 医師採用専門の求人サイトに広告を掲載した。掲載当初は医師から2~3件の問い合わせがあり、期待が持てたが、3か月目からまったく反響がなくなった。営業担当者に問い合わせても、「貴院のページは見られているようですが、応募がない原因は不明です」との説明を繰り返すだけで、効果が出ないまま掲載期間の6か月が終了。逆に広告を見た紹介会社からの営業が増え、その対応に手間がかかってしまった。
× 院長の片腕として長く法人に貢献してくれた医師の退職が決まり、後任として法人の核になるような医師を採用しようとヘッドハンティング会社に依頼。着手金は300万円と高額だったが、背に腹はかえられない思いで申し込んだ。営業担当者は全国に出張して精力的に活動したようだったが、結局1年間採用は決まらず、着手金と出張費(交通費・宿泊代)がかさんだだけだった。
○ 長らく紹介会社に分院長の求人を依頼しているが、まったく応募がない。ある日、非常勤医師の一人から「医局の先輩で、雇われ院長の口を探している人がいる」と相談があった。一度その先輩に来院してもらうと良さそうな先生だったので、週に1日アルバイトに来てもらうことに。9か月後に分院に好適な物件が見つかったため、この先生に分院長就任を打診したところ、快諾してくれた。分院開院後も精力的に診療してもらっており、この先生を紹介してくれた非常勤医師には感謝してもしきれない。
もちろん、2つの×事例とは反対に、求人広告で医師から直接応募があって採用が決まったり、ヘッドハンティングで理想の医師を採用したりするケースも多くあります。どの採用手法が最適なのかは、予算やスケジュール、人材要件に応じて異なるのです。
また、結果としてリファラルリクルーティングによる採用は、定着率が高くなるといわれています。○事例のように「分院長を紹介する」という価値の高い貢献をしてくれた非常勤医師に対し、相応の謝礼を支払うことは、将来次の紹介を促すうえで非常に大切です。仮に、この非常勤医師に100万円の謝礼をしたとしても、人材紹介会社に支払う金額の3分の1であり、なおかつ知り合いの医師が職場にいることで、折に触れてフォローも期待できます。
本質的には、既存のスタッフが知り合いの医師に「この法人は働きやすいから一緒にどうですか?」と勧めてもらえるような職場づくりが必要ですが、このテーマはまた別の機会に考えてみましょう。
・医師採用の予算とスケジュール、人材要件に合わせ、採用手法を選択する
・一般人材の採用手法に「HR Tech」の波が来ており、医師採用においても要チェック
・費用対効果と定着率から見て、リファラルリクルーティングに注目が集まっている
次回は、「科目別、失敗しない採用とは」というテーマを予定しています。ご期待ください!
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