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開業医のための「医院経営相談外来」

開業医のための「医院経営相談外来」 Q.8

税理士から、そろそろ医療法人の設立を検討するようにすすめられました。しかし、目的が今ひとつよくわかりません。なぜ医療法人を設立するのでしょうか?

  • 法人の活用

2016.07.20

医療法人を設立する目的は様々です。自分のライフプラン、今後の医業経営をどうしたいのかによって、その目的は違ってきます。まずは医療法人のメリット・デメリットを理解した上で今後のことをよく考え、そのために医療法人が役に立つのであれば設立を検討しましょう。

医療法人を設立するメリット

医療法人は医療法で定められた法人で、都道府県知事の認可を受けて設立します。医療法には医療法人の義務が定められています。

医療法第四十条の二
「医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならない。」

医療法人としての責務を果たすため、医療法人には様々な制限が加えられていますが、同時に、医療における質の向上や地域における医療の重要な役割を果たすためのメリットも与えられています。

主なメリットは以下の通りです。
.個人・一般法人と比べて税金が優遇されている。
.分院や介護施設など複数の施設を展開できる。
.医療法人の資産は相続財産には含まれない。(持分のない医療法人に限る)

これらのメリットについてひとつずつ説明します。

.個人・一般法人と比べて税金が優遇されている

 

個人の税率は累進課税で、所得が増えるにつれて上がっていきます。現在は、課税所得が1,800万円を超えると約51%、4,000万円を超えると約56%の税率になります。経営が順調で利益が出るのは良いことですが、それに伴って税金も多額になり、「手元にお金が残らない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。これでは内部留保がなかなか進みません。そうなれば、医療の質を向上し、地域医療を充実させるための医療機器の購入や設備投資なども困難になってしまいます。
一方で、医療法人の税率は低く抑えられています。課税所得800万円までは約20%、それを超えても約30%の税率です。(一般法人はこれに約5%の法人事業税が課税されますが、保険診療にはかかりません。)
個人の税率56%の所得を医療法人に移すだけで、約36%税率が抑えられる計算です。内部留保もしやすく、資金を借り入れて設備投資をしても、返済はぐっと楽になります。その結果、医療機器の購入、設備投資、事業の展開がしやすくなるのは明らかです。

.分院や介護施設など、複数の施設を展開できる

 

個人でクリニックを開院していて、分院を開設したいと思っても、制度上できません。個人クリニックの開設者・管理者は他の医療施設の開設者・管理者になることができないからです。名義貸しのような形をとり、実質的な分院を展開していることがありますが、これはおすすめできません。法律に抵触する恐れがあり、将来、分院長とのトラブルになる危険性もはらんでいるからです。
医療法人では、理事長は1人ですが、医療法人が開設者となり複数の分院を開設できます。また、介護施設や有料老人ホーム・高齢者専用賃貸住宅などの事業も行うことができます。その結果、地域医療の重要な担い手としての役割を果たすことができます。
医療法人は様々な事業を行うことができますが、その範囲は医療・介護を中心に定められています。新たな事業を展開するために医療法人を設立しても、想定していた事業を展開できないのでは意味がありません。医療法人が行うことのできる事業の詳細は厚生労働省のホームページ内にある「医療法人の業務範囲」に詳しく書かれていますのでご確認ください。

.医療法人の資産は相続財産に含まれない

2007年4月より前に設立された医療法人は、持分がある法人でした。つまり、経営が順調に推移し資産が増えると、それは個人の資産となり、相続財産に含まれていたのです。その結果、多額の相続税が発生し、その支払いに困るケースが多発しました。また、相続対策のために子どもに持分の贈与をしたいのに、「誰が法人を承継するか」が決まっていなかったり、早く贈与してしまったために兄弟間での争いが起こったりと、トラブルの元になっていました。これらのトラブルから、医療法人の経営継続が困難になるケースも見られました。

2007年4月以降は医療法が改正され、原則として持分のない医療法人のみ設立できるようになりました。これは「医療法人を解散するときの残余財産が国や地方公共団体に帰属する」ことを意味します。

医療法改正当初、この改正は設立者にとってデメリットと捉えられ、医療法人の設立を見送るケースもあったようですが、よく考えると大きなメリットもあります。利益が出て資産が多くなっても、最初に拠出した資産以外は相続財産にならないのです。相続対策や相続税、家族間のトラブルに心を煩わされることなく、医業に集中することができるのです。それにより、医療の質を向上し、継続していくことが可能になります。

ここまで医療法人のメリットについて説明をしてきましたが、医療法人の設立には、様々な制限や煩わしい手続きなどのデメリットもあります。ですから、「自分の目的のために医療法人を活用できるかどうか」を、正しい情報をもとに判断してください。一般論ではなく、あくまでも個別事情で考えることが重要です。「自分はこうしたい、そのためには医療法人のこのメリットを活用する」という考え方が大切です。

税理士や専門家、業者の中には、先生方のためではなく、自分のビジネスのために医療法人の設立をすすめる人もいるようです。そのような人の言いなりになるのではなく、自分で理解・納得をして設立するようにしてください。心配な時には、設立判断のためにセカンドオピニオンを利用することもおすすめします。

 

※このコラムは、2016年6月現在の情報をもとに執筆しています。

 

 

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執筆者紹介

近藤 隆二

近藤 隆二
(こんどう りゅうじ)

医業経営コンサルタント
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会)
非営利団体 医業経営研鑽会・副会長
米国NLP™協会認定NLPマスタープラクティショナー

大手OA機器メーカーで12年、生命保険会社で12年勤務した後、医業経営のコンサルティングの仕事に携わる。「部分最適ではなく全体最適を考える」ことを貫き、さまざまな状況に応じたフレキシブルなコンサルティングを得意とする。コミュニケーションを密にすることで、それぞれのお客様にとって本当に良いことは何か、お役にたてることは何かを、常に考え続けている。
近藤隆二氏のホームページ「ドクターよろず相談所」はこちら

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