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ドクターのための医業経営力養成講座

ドクターのための医業経営力養成講座 第8回

医療法人をどのように活用するか

  • 法人の活用

2016.05.23

今回は「設立した医療法人をどのように活用するか」について説明してまいります。医療法人は、個人に比べて所得に対する税率が低く、税金面で有利ということは前回お伝えしました。医療法人には、他にも医業経営で生かせる特典があります。

かつて医療法人の設立には常勤の医師または歯科医師3名以上が必要でした。しかし、昭和60年に医療法が改正され、一人でも医療法人を設立できるようになりました。それにより、個人開業医の法人化が飛躍的に進みました。
改正のそもそもの狙いは、家計と経営を分離し、経営基盤の安定化、合理化を図ろうといったものでした。しかし現在、高齢化が進み、経済成長が鈍化している今、国民の医療に対する要望は多様化しています。患者が自身に合った病医院を自分で選択する傾向が強まるに従って、医療機関相互の競争も厳しくなってくるはずです。そのような状況においては、経営上の選択肢が増える法人化への移行は、開業医の先生にとって節税以外のインセンティブになるのではないかと思います。

医療法人化による活用ポイント

多くの場合、医療法人化のきっかけは節税効果への着目だと思います。個人は超過累進税率、法人は段階税率になっていて、個人の方が、所得が高いほど税負担が重くなります。税金面では法人に利益を残す方が節税効果は高くなります。同時に医療法人化することで医業経営面での様々な活用や展開が可能となります。それらを具体的にみていきましょう。

所得分散をすすめる

個人開業時代は、専従者給与を除いては原則として親族に対する給与は経費になりません。また、専従者は所轄の税務署に届け出をし、月の半分以上をクリニックの仕事に従事することが求められます。しかし、医療法人の役員報酬として親族に支給した場合はそのような縛りがなく、その額が法人の収益性や他の医療法人の支給実態と比べて相当な場合は、損金(費用)として認められることになります。理事長を含めた親族が理事になることで、個人開業時より多く所得分散ができることになります。

退職金の優遇税制を使う

退職金はリタイアをした後の生活設計の安定を図るうえでも大切です。それは退職金が所得税法上で他の所得とは区別され、税制面で優遇されているので、手取額が大きく確保できるからです。医療法人であれば、理事長勇退時に退職金を受け取ることができます。これは個人事業では支給できません。まずは税法上適正な退職金規程を作成して、損金否認されない退職金の準備が必要です。

法人契約の生命保険に加入

リスクマネジメントの一環として、医療法人が契約者となり、役員対象の生命保険契約を締結します。これは、いざというときの資金準備と、退職金の支払原資として最適です。掛捨てを除いては、大体の生命保険は保険料の1/2が損金になります。(個人であれば保険料をいくら多額に支払っても12万円までしか所得控除が受けられません)

経費の幅が拡がる

個人開業時代には、飲食などの交際費や車両関係費などは税務調査で否認されるケースがよくあります。しかし、法人の場合は基本的に業務関連の支出と考えられるため、経費性を認められることとなります。また、学会参加等の多いドクターの場合、出張旅費規程などを作成して定額の宿泊代や交通費実費を日当として支払い、相当額は法人で旅費交通費に計上します。支払いを受けたドクターは給与課税されることはありません。

分院の開設ができる

個人開業のクリニックは、分院を開設することはできません。しかし医療法人の場合はそれが可能で、サテライト経営戦略として、より広い地域のニーズに対応した医療サービスの提供を行うことができます。また、共同購入によるコスト削減の効果など経営面、資金面でのメリットが期待されます。

分院長としての管理者は、常勤の医師、歯科医師として医療法人の役員にする必要があります。分院の開設にあたって最も重要なのは、「どのように分院長としての管理医師を確保するか」という点です。設備や資金の負担、経営リスクは医療法人が担うとはいえ、患者の獲得や経営に対する貢献等のモチベーションを維持するため、分院長には給与体系など待遇面への配慮が必要になります。また、場合によっては、将来医療法人を承継する予定のご子息を分院長に据え、経営感覚をトレーニングする場にすることも考えられます。

事業機会の拡大

介護事業の展開を考える場合、老人介護保険施設、訪問看護ステーション、通所介護、有料老人ホーム等については、法人格があることが指定の要件になっています。その他、生活習慣病予防、健康増進のためのメディカルフィットネスセンターの運営、スポーツ障害のリハビリ訓練など、医療法人としての業務範囲を生かした事業展開が考えられます。医療法人は病医院経営以外にも多くの附帯業務があり、国際展開に関する業務など政策上も拡大傾向にあります。

その他

あまり大きくアピールされませんが、個人の場合には必ず12月末日で事業の計算期間を締めなければなりません。一方、法人格では決算日を自由に決めることができます。診療科によって売上がピークになる時期は異なります。その時期を避けることで、十分な決算対策の時間を取ることができる点も、注目に値するポイントです。

医療法人化した後の留意点

医療法人は、毎年会計年度終了2ヶ月後に資産総額の登記を、また3ヶ月以内に事業報告等をとりまとめて都道府県知事に提出することになっています。さらに、医療法人の役員の任期は2年を超えることはできないので、2年に一度、理事長について役員変更の登記(重任は可能)が必要になります。

医療法人の理事長が他の営利法人の代表を兼ねることは認められません。その場合、医療法人の理事長は法人を代理することができなくなりますので、都道府県に対して取引ごとに特別代理人を選任する必要が出てきます。ただし、一方の医療法人と取引がない営利法人については、兼務があってもとくに問題はありません。また、医療法人の理事長が他の医療法人の理事長になるのは、相応の理由がない限りは認められません。 

医療法人は社員で構成する「社員総会」と、役員で構成する「理事会」からなっています。法人の重要な運営事項は社員総会で決定され、社員は出資額(拠出額)に関わらず、社員総会で一人1個の議決権を持っています。また、社員資格は医師、歯科医師であることを求めるものではありません。
ですから医療法人の場合、将来的にその事業規模が拡大してきたとしても、理事長を中心として親族が社員総会の議決権をしっかり固め、経営方針を揺るぎなく実行していくことが何より重要となります。

その他、注意しておきたいのは、つい見落としがちな社会保険のことです。税金のことばかりに関心が行きがちですが、医療法人の場合は社会保険の加入が義務付けられており、保険料負担は個人のときに比べて増加します。(ただし個人開業時から医師国保に加入していた場合、例外的に継続が認められています。) 

最後に、医療法人は法律によって剰余金の分配ができないだけでなく、院長個人への貸付も制限されます。個人開業時代のように、手許資金が不足した場合にクリニックからお金を引っ張るような「事業主貸し」という処理は安易にはできません。個人で必要な資金は給与から支払うということを理解しておきましょう。

※このコラムは、2016年5月現在の情報をもとに執筆しています。

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執筆者紹介

水本 昌克

水本 昌克
(みずもと まさかつ)

リーガル・アカウンティング・パートナーズ 税理士

昭和41年東京都出身。平成2年慶応義塾大学経済学部卒業。損害保険会社、辻会計事務所、税理士法人タクトコンサルティング(医療福祉チーム)などを経て、平成20年に株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズを設立。現在、税理士、行政書士事務所の代表とともに医療法人及び社会福祉法人の監事、NPOの理事を務め、医療経営、相続・事業承継対策を中心とした業務に取り組んでいる。
水本昌克氏が代表を務めるリーガル・アカウンティング・パートナーズのWebサイトはこちら

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