医院開業コラム
実例に学ぶ クリニック内装の機能とデザイン 第1回
2017.01.27
今回「CLINIC Station Portal」にてクリニックの内装設計・デザインや設備・実際の施工に関してコラムを書かせていただく小川正弘です。経歴等はプロフィールをご覧いただければと思いますが、150人規模のインテリア設計施工会社にて役員をしております。主な仕事は経営管理業務ですが、現場が好きで、今も現役でクリニックの建築やインテリアの設計業務を行っております。今回から1年間、本コラムを担当させていただきますので、よろしくお願いします。
今回のテーマは「クリニックのテナント選び」です。テナント選びのポイントには様々な要素があり、市販されている開業マニュアル等でも、多くのチエックポイントが記載されています。中でも今回は「安全」という視点で考えてみたいと思います。
遅ればせながら、話題の映画「君の名は。」を観てきました。アニメーションも内容も素晴らしく、背景や建物もCG以上のリアリティがあり、大人でも見ごたえのある作品です。ネタばれになりますから詳しくは書きませんが、ストーリーの中核には「まさかの事態」が起こります。
2011年の東日本大震災以降、私達の日常は様々なリスクの上に成り立っていることが顕在化しました。あの時を機に、「まさかの事態」は、実は「まさか」ではなく、現実・日常に存在する事象として、捉えられるようになったのではないでしょうか?職場や学校でも自然災害に備えた防災訓練や防災用備蓄品の管理が見直され、今やそれが当たり前のことになってきています。もちろん医療施設(たとえビル内の診療施設でも)においても、今や「まさかの事態」を想定しない計画はありえません。むしろ施設の性質上、他施設よりもリスク回避やいざという時の安全性がテナント選びの重要な指針になっていると感じます。立地や、家賃、ビル自体のアメニティなど選択時の諸条件は多々ありますが、「まさかの事態」における安全性は最も重要なテナント選びの条件となっています。
具体的には、以下の4点が要チェックポイントだといえます。
1.テナントの築年数
基本的には、新しいほど耐震性に優れているといえます。鉄筋コンクリート造や鉄骨造の場合、新耐震基準に変わった昭和56年6月以降に建築確認申請が受理された建物であることが重要です。また、テナント選びの際は、ビルの高層階(31m以上)における長周期の揺れも考慮する必要があります。
木造の場合は平成12年と平成17年に建築基準法が改正されていますから、現時点では平成17年以降に建築確認申請が受理された建物であることが、一定の基準となります。
2.アスベスト(有害断熱材の有無)
アスベストが完全に不使用になったのは平成18年以降のビルです。鉄骨造のテナント物件は、専門家による断熱材等の調査がされているか確認する必要があります。
3.停電時の自家発電装置の有無
診療中・処置中・手術中の停電に備えるために、ビル自体にバックアップの発電設備があるかどうかをチェックします。設置されてない場合は、必要であれば診療所内にUPS(無停電電源装置)を設置します。
4.テナント建築物の施工品質
現実的には判断が難しい部分です。日本を代表する企業グループのマンションが傾き、建替えが決まったのも記憶に新しいところではないでしょうか?
完全ではありませんが、新築中の場合は建築図面・確認申請書類等を見せてもらい、専門家に相談するしか方法はありません。既築ビルの場合は入居中の他テナントの話をお聞きしたり、専門家にビルの施工精度を調査してもらうなどして判断します。一般に、ビル自体の管理体制がしっかりしている場合、施工品質も比較的良い傾向にあるといえます。
以上の4点だけで、起こりうる「まさかの事態」に対処できるわけではありませんが、リスクに対する被害・ダメージの低減という意味では重要な要素です。
自然災害の多い国土、老朽化しつつあるインフラと、私達の取り巻く環境を考えると、決して安全が担保されている国だとは言い切れません。高齢化が進んだ社会で、医療施設を創っていくことは、公共的施設の機能としても、個人資産としてのリスク回避の意味でも、明確なリスクコントロール下でのテナント選びや立地選択が今まで以上に重要になります。想定外の惨事を避けるためには、起こり得る事態を想定し、真摯に対処する以外に方法はないのです。
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