医院開業コラム
開業医のための「医院経営相談外来」 Q.1
2015.12.15
クリニックを開院するにあたって、何から始め、何に気をつけたらいいのでしょうか?
一番重要なことは、経営者になるという覚悟を決めることです。自分は何のために開院をするのか、どのような医療をしたいのか、そして医師としての役割以外に経営者としての様々な仕事や障害を引き受け、それを乗り越える強い意志を持てるのかどうかが大変重要です。
クリニック開院に関する本を何冊読んでも「何が解らないのかが解らない」という話をよく聞きます。これは考えてみると当たり前のことです。
クリニックを開院するということは、勤務医がこれまで経験したことのない経営の世界にいきなり飛び込むということです。経営という大きく深い世界を本だけで理解することは困難です。実際に経営をして、日々の活動の中で考え、気づき、行動することを繰り返していく中で「経営とはこういうものだ」ということが解ってくるのです。経営をしていく中で、どのようなことが起こるのかは経験したことがないとイメージできません。そして、想像以上に様々な困難が起こると考えて間違いありません。
開院することだけを考えても、「開業の物件探し」「事業計画」「資金調達」「建築・内装」「医療機器の選定」「スタッフ採用」「広告宣伝」「各種手続き」など様々なことを行わなければなりません。そして、開院した後にはさらに多くのことが待っています。いかに患者さんに来てもらうのか、いかに利益を出してお金を確保するのか、スタッフにいかに気持ちよく働いてもらうのかなど。これを日々の診療を行いながら一つ一つきちんと対応していくのは至難の業です。経営者になるという強い覚悟がなければ、できることではありません。
このような覚悟を持てない人は、開業をすることを控えた方が良いと思います。開業した後に医業経営がうまくいかず、「勤務医のままでいたほうが良かった……」ということになりかねません。
自分の覚悟を確認するために、事業計画を作ってみることをお勧めします。それもできるだけ具体的なものを作ってください。どのような医療を行うのか、場所はどこなのか、広さはどれぐらいなのか、どのようなスタッフが何人いてどのような医療機器が必要なのか、諸々の経費はどれぐらいかかるのかなど、リアルなイメージをもとに作ってください。
これができない状態では開院はしないでください。そして、クリニックの経営を継続し、自分の家計を賄うにはどれだけの利益が必要なのかを計算してください。そしてその利益を出すためには一日何人の患者さんに来てもらわなければならないのかを考えてください。
その人数を見て、「自分ならこの人数は大丈夫」と思えるのかどうかが重要です。「とてもこの人数は無理だ」という場合は事業計画を見直してみてください。それでも無理だと思うなら開院をひとまず止めてください。
この事業計画は大変重要です。計画をたてても、その通りに進むことはまずありません。そして、様々な変更をする時には追加の経費が必要になることもあります。その時にはその経費を賄うために追加で一日何人の患者さんに来ていただく必要があるのかを考えるようにしてください。あまりにも必要な患者さんの人数が多くなるようでしたら、当面はその経費を使うのを止めることも検討しましょう。
事業計画を考えるのは面倒なので、税理士などに任せきりということが多いようですが、これは危険です。少なくともその事業計画の内容をよく理解し、設備投資などをする時には、自分の責任で意思決定をするようにしてください。とくに開院当初は無駄な設備投資、経費は極力抑えることが重要です。
これらのことを自分一人で行うのが困難な時には、信頼できる人のサポートを得ることも検討しましょう。それは税理士のような専門家なのか、企業の人なのか、あるいはコンサルタントなのかは関係ありません。自分のことを真剣に考えてくれ、時には耳に痛いアドバイスもくれるような人が望ましいです。喩えていうなら、登山をする時にアドバイスをしながら、一緒に登ってくれるような人です。信頼できるパートナーです。
このような人はなかなか居るものではありません。ホームページなどを検索するとこのようなことを書いている人は大勢いますが、実態は違っていることが多いようです。一番良い方法は、既に開院している方などにこのような人が居ないか聞いてみることです。そんな人が居たら、まずは話を聞いてみるだけでも大きなヒントをもらえるのではないかと思います。
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