医院開業コラム
クリニック経営者のための医療ICT活用メソッド 第42回
2021.11.12
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)によって、クリニックを取り巻く経営環境は大きく様変わりしています。これからは従来の考え方や手法にとらわれず、「ニューノーマル」と呼ばれる新しい考え方で経営に取り組む必要が出てきています。
そんなコロナ禍の今、その重要性がますます増しているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。DXとは、最新のデジタル技術を駆使して、人々の生活や企業のビジネスのあり方を変容させることを指します。医療業界も例外ではなく、デジタル化の進捗によってクリニック間で大きな格差が生まれる時代が到来しています。
クリニックにおけるDXの基幹システムは今も昔も「電子カルテ」ですが、クリニック全体のDXを考える際には、この電子カルテと他のデジタルツールを組み合わせることが重要になります。では、具体的に何をすればいいのか。DXを考えるうえで必要となる3つの視点が、「感染対策」「生産性向上」「患者満足の向上」です。
新型コロナは、私たちに「感染対策」の重要性を再認識させました。医療機関には感染対策として「3密」を避ける仕組みづくりが求められ、それには非接触を意識したICT活用が必要となります。
また、コロナ禍で多くの方々が感染対策を徹底したことにより、季節性疾患に罹患する人の数が大きく減少し、患者の受診スパンが長期化しています。結果的に、しばらくは患者増が見込めない「患者減少時代」が到来。このような時期は、クリニックもコスト抑制に取り組む必要がありますから、「生産性向上」を意識せざるをえません。さらに、政府は少子高齢化に対応するために「働き方改革」を推奨しており、労働時間の短縮の流れが加速しています。短い時間でこれまでと同様、もしくはそれ以上の成果を残すためにも、生産性向上への試みは必須でしょう。
そしてコロナ禍では、患者のニーズも大きく変わってきています。例えば飲食店では、注文や会計などの自動化が進むとともに、テイクアウトサービスに対応しなくては生き残れない状況になっています。これは医療の世界でも同じで、新たなニーズに応えて「患者満足の向上」を実現できなければ選ばれない状況にあるのです。
ここからは、前述した「3つの視点」をふまえて、DX化を推進するための3つの具体的な提案をご紹介していきます。
【1】各種システムやツールの導入
近年では、診療や事務作業をサポートしてくれる以下のようなシステムやツールが誕生しています。
・予約システム
クリニックの感染対策では、待合室・受付の密解消が欠かせません。その特効薬は「患者は待合室で待つもの」という考え方から脱却すること。つまり、診療時間が近づいてからクリニックに来院するという仕組みを取り入れる必要があるのです。
その実現のためには、患者呼び出し機能がある「予約システム」が有用でしょう。予約システムを導入することで混雑を緩和して患者間の距離を確保できるだけでなく、待ち時間の短縮にもつながります。待ち時間短縮に成功したクリニックは、「できるだけ空いているクリニックにかかりたい」という新しい患者ニーズを満たすことができ、患者数の増加も期待できます。
・Web問診
コロナ禍では、発熱患者とそれ以外の患者を区分けすることも求められるでしょう。その対策として、「Web問診」の導入が進んでいます。
来院前にWebで問診をとることで、感染の可能性がある患者を事前に把握し、通常の患者と分けて受け付けることが可能に。また、事前に問診をとることで前もって診察の準備を行えるため、オペレーションの効率化、つまりは生産性向上の観点でも効果があると報告されています。
・自動精算機・セルフレジ・キャッシュレスシステム
我が国では、コロナ禍で「自動精算機・セルフレジ・キャッシュレスシステム」による精算業務の自動化が進みました。精算業務の自動化は人件費を下げるだけでなく、現金を触らないため感染対策に効果があることもコロナ禍のニーズにマッチしたといえます。
遅ればせながら、クリニックでも精算業務の自動化が進みつつあります。他の業界と同じくスタッフの労働時間短縮、接触機会の減少を図れるため、「感染対策」と「生産性向上」という2つの効果を期待して、今後もさらに導入が進むことでしょう。
【2】電子カルテのさらなる活用
本記事の冒頭で「電子カルテはクリニックのDXにおける基幹システムである」とお話ししましたが、DXを推進するうえでは、この電子カルテのさらなる活用も欠かせません。
例えば、電子カルテの導入台数を増やすこと。昨今のクラウド技術の発展、それに伴うサブスクリプション型サービスの出現によって電子カルテの価格は低下し、端末数を増やしやすい状況になっています。スタッフひとりに1台電子カルテを割り当てられれば、これまでのように医師がメインで電子カルテを利用する形から、医師とスタッフが同時並行的に利用する形に移行できるでしょう。このスタイルは、必ずや生産性向上に資すると考えられます。
また、医師の事務作業を医療クラークが代行する試みもあります。「医師事務作業補助体制加算」が2008年に新設されてから10年以上が経過した現在、約1/3の病院で導入されています。そんな「タスクシフティング」の流れはクリニックにも到来しつつあり、医療クラークが電子カルテを入力する光景がクリニックでも見られるようになりました。
【3】オンライン診療の積極的な実践
2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令される中、時限措置として初診から電話・オンライン診療が可能になりました。2022年度の診療報酬改定では、この時限措置を恒常化するべく検討が始まっています。これからオンライン診療は、スタンダードな診療形態のひとつとなるでしょう。
しかし、決して対面診療を希望する患者がいなくなるわけではなく、ニーズが多様化しているのです。クリニックでは今後、患者の希望に応じてオンライン診療と対面診療を上手に使い分けることが求められます。
なお、政府では電話・オンライン診療に対応する医療機関をホームページで公開しており、この情報を基に患者がクリニックを選ぶケースが増えています。今後も患者が医療機関を選別する動きはさらに加速すると考えられるため、クリニックが生き残るには、オンライン診療などの「選ばれるための新たな取り組み」を積極的に行うことが必要になります。
新型コロナの感染拡大は、人々の生活様式と受療行動に大きな変化をもたらしました。感染を恐れる患者は「受診控え」という行動をとっており、医療機関が安心・安全であると認識されなければ、患者は戻ってきません。
このような状況下で、クリニックはこれまでの常識を一旦否定し、「ニューノーマル」に対応できる体制を構築する必要があります。具体的には、デジタル化を進め、「感染対策」「生産性向上」「患者満足の向上」にいち早く取り組むことが大切なのです。患者から選ばれ、生き残るクリニックになるためには、デジタル化への躊躇が格差につながらないよう、柔軟な発想をもって変化に適応することが求められています。
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