医院開業コラム
承継入門、最初の一歩 第1回
2023.04.12
第1回となる本稿では「既存医院の承継」をテーマに、お話していきます。医院開業を検討する際、最初の選択肢として、ご自身で新規クリニックを立ち上げたいと考える方も多いでしょう。しかし、実際には資金面や不動産面、さらには周辺地域の患者さんのニーズなど多くのハードルがあり、必ずしもスムーズに進むとは限りません。
そこで考えたいのが「第三者承継」という選択肢です。現在、少子高齢化と人口減少により、全国的に病院や診療所の後継者不足が深刻化しており、事業承継者が見つからないまま閉院を検討しているというケースも増えています。
今後“後継者を探している医院を承継する”という方法は、より増えていくと考えられるため、医業承継の現状を知っておくことは大きなメリットになるでしょう。診療所数の増減や経営者の高齢化、医業承継に関する意識などのデータを基に、解説していきます。
1990年代半ばと比較し、そこからの20~30年間で病院や診療所の廃止・休止施設数が大きく増加しています。2019年に日医総研が行った調査によると、1996年には年間4,274件だった廃止・休止施設数(病院・診療所とも含む)は、2014年には年間7,677件になり、実に約2倍近くまで増加しています。
こうした医療機関の廃止・休止数増加の背景には、医療施設経営者の高齢化問題と後継者不足という2つの原因があると考えられます。以下のデータを基に、医療施設経営者の高齢化問題について見ていきましょう。前述した日医総研の調査によると、病院経営者の平均年齢は年々上昇しています。
【医療機関経営者平均年齢(施設別)】
出典:日医総研ワーキングペーパー
加えて、2017年時点で60才以上の経営者が占める割合は、病院が66.1%、診療所が52.6%です。公的病院および民間病院の場合は法律や病院規定による定年がありますが、開業医の場合は自分自身で進退を判断しなくてはなりません。後継者は見つからないが、地域医療を考えると自分が辞めるわけにもいかず、判断がつかないまま高齢化が進んでしまうという状況も考えられます。
また、医療施設経営者は、原則として医師の資格条件が求められます。そのため、他業界と比較して、後継者を探すこと自体が難しいのが現状です。
続いて、後継者不足について見ていきましょう。医療機関開設者の後継者不在率は、以下のようになっています。「後継者不在率」には「後継者がいないことが確定している」だけでなく「現時点では、後継者が決定していない」という回答も含まれます。
【2017年 後継者不在率(施設別)】出典:日医総研ワーキングペーパー
診療所では、実に9割近くが後継者に悩んでいるという結果になりました。また、医療機関開設者への承継に関する意識調査では「親族・第三者など何らかの形で承継を検討している」という回答が62%ある一方で、全体の43.9%が「閉院も検討している」とも回答しています。これらの数字からも、後継者不足がいかに医療機関の廃止・休止数増加に影響を与えているかがわかるでしょう。
前述したように、1990年代から比較して医療施設の廃止・休止数は増加していますが、日本全体の医療施設数自体は微増しています。無床診療所が増加し、病院施設や有床診療所が減少した結果、全体としては微増している状況にあるのです。
中でも大きく減少しているのは、99床以下の小規模病院と有床診療所です。1990年代前半には約20,000施設以上あった有床診療所は、2014年時点で約8,000施設になっています。ただし、全体数は微増傾向にあるため、今のところ日本各地で「地域病院や診療所が足りず、地域医療が立ち行かなくなる」といった自体には至っていません。
しかし、このまま廃止・休止施設数が増加すると、十数年の間には無医地区や十分な地域医療が行えない地方が出てくる可能性もあります。このような状況に歯止めをかけるためにも、後継者不足を解消し、しっかりと医業承継が行われることが重要なのです。
「医業承継」と聞くと、多くの方は子どもや親族が継ぐ「親族内承継」をイメージされるでしょう。これまでは、院長の子どもが継ぐ「親族内承継」が一般的でした。現在でも一番多いケースではありますが、昔に比べると減少してきています。理由としては、子どもが医師にならなかった、医師にはなったが大きな病院などに勤めているため継ぐことが難しくなったなどが考えられます。
また、地方の診療所などの場合は地域自体の人口が減少状態にあるため「子どもに継がせても、その後何十年も安定して経営ができる見込みがない」と考え、承継をあきらめてしまうケースもあるようです。子どもによる承継をはじめとした、配偶者・親族などによる「親族内承継」の場合、生活環境や地域の将来性なども含め、早い段階から家族で話し合って進めておかないと、なかなかうまくいきません。
医業承継には、親族内承継のほか、主に3つの選択肢があります。以下で、順に解説していきましょう。
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