医院開業コラム
ビジョンを具現化するクリニック創りの羅針盤 第5回
2021.08.18
今回は、日本の保険診療のクリニックで多く見られる『患者移動型のクリニック』の設計と、欧米のクリニック、および日本では主に自由診療による美容系・AGA・EDなどのプライバシーが優先される診療を行うクリニックに見られる『医師(職員)移動型のクリニック』の設計の違いについて考えてみたいと思います。
なお、今回のテーマは、事前に第3回『大きな医療機関と小さな医療機関』をお読みいただくと、よりイメージしやすくなるかと思います。ぜひ併せてチェックしてみてください。
私は新型コロナウイルス感染症の感染拡大を機に、日本と海外のクリニックにおける建築や内装の特徴、それぞれの感染対策や設計の違いについて調査を行っています。その中でわかってきたのは、欧米の方々の多くが、日本のクリニックに対して、「待ち時間が長い」「プライバシーが守られていない」「感染対策ができていない」といった不満をもっているということです。
この点を詳しく調べると、その不満の原因は、母国で利用されていた一般的なクリニック(いわゆる「かかりつけ医」)と日本のそれとでは、制度やオペレーションなどのソフト面だけでなく、待合室の構造や動線計画といったハード面にも違いあることがわかってきました。
一例を紹介すると、日本のクリニックでは、患者さんは広い待合室で自分以外の多くの方々と一緒に待機し、順番が来たら医師の待つ診察室に行くのが一般的です。一方、欧米では受付が終わると待合室ではそれほど長く待たされず、早めに複数ある個室(診察室、処置室)のうちの一つに通され、そこで看護師や医師が来るのを待つというスタイルが多いのです。
西洋人は東洋人よりもプライバシーに対して意識が高い傾向にあると言われており、そこにきて母国では経験してこなかった方法(何らかの病気に罹患している人々と一緒に、長時間にわたって待機する)で待たされては、不満や不安が大きくなるのは想像に難くないでしょう。
私たちは、今の日本のクリニックのスタイルが「当たり前」と考えがちですが、時代や場所、制度が変われば、当たり前ではなくなります。クリニックの設計を考えるうえでも、このことをしっかり意識しておかなければなりません。
私は患者さんが待合室で他の患者さんたちと一緒に待って、順番が来たら医師の待つ診察室に行く設計を『患者移動型』(図1)と、患者さんが待合室では長時間待たず、早めに個室(診察室、処置室)に移動して医師や看護師を待つ設計を『医師(職員)移動型』と(図2)呼んでいます。
なお、第3回の『大きな医療機関と小さな医療機関』で、線型と面型の設計についてお話ししましたが、日本における一般的なクリニックの設計は、面型も線型も、基本的には『患者移動型』です。
『患者移動型』は、医師や職員の移動距離・時間を減らせるため、少ない職員数でも作業効率を向上でき、テナントの面積効率も上がる傾向にあります。しかし、患者さんのソーシャルディスタンスやパーソナルスペースなどを確保するのが難しくなるのがデメリットです。
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