医院開業コラム
実例に学ぶ クリニック内装の機能とデザイン 第12回(最終回)
2018.01.23
最終回はクリニックの建材や設備材料・部品に関するお話です。
最近では病院やクリニックの仕上げ材料にさまざまなものが使用されるようになり、商業施設や一般の建築物と変わらない仕様になってきています。
建材自体の性能がアップしてきたことにより、医療施設の空間に対する考え方にも変化が生じてきました。これは、患者さんや施設に関わるすべての人達が「医療機能が最優先、快適性は二の次」と思わなくなり、医療機能と快適性が同様に扱われ始めたからともいえます。つまり、供給者と使用者のニーズが「華美に走らない清潔で合理的な空間」から「身体ダメージを持った人に優しく、同時に高度医療が行える空間」へと変わってきているのです。
また『高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律』によってバリアフリーに関する法律が整備され、車椅子の利用を考慮した設計や建材選択が必要になりました。そのため、バリアフリー的機能を有する建材と健常者が好む建材とのバランスを加味することが求められ、設計者の感性がより大切になってきています。計画時にはメンテナンスや清掃を考慮に入れる必要もあり、建材選択はクリニックの設計における重要なポイントです。
実際にアメリカの医療施設を見ると、バリアフリーとメンテナンス性、インテリアデザインのバランスが絶妙な施設が少なくありません。その傾向は、アカデミー賞で主演男優賞と脚本賞を獲得した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』という映画にも表れています。
病室のシーンで日本では2丁掛けタイル、アメリカではサブウェイタイル(※参照画像1、2)と呼ばれる長方形の白いタイルの壁に、ベッド上部にウッドの棚がついているのを見てびっくりしました。地下鉄の通路に張るようなタイルとウッドの棚のデザインバランスが優れていて違和感がなく、居住性も高そうに見えたのです。アメリカの清掃クオリティの低さは病院に限らず、すべての施設で日本と比較になりません。清潔に保つメンテナンス能力という意味でも、モップで壁まで清掃できるような清掃のしやすさは、設計時にかなり重要な要素となります。
また、私が数年前に中国の瀋陽で設計した眼科病院は、1日に700人もの外来患者が来院します。20人のドクター、看護師・検査技師・会計・調剤などを合わせると、利用者は1,000名に近い施設です。中国のすべての施設が低いわけではありませんが、アメリカよりも清掃能力がより低い状況の中で、設計時の建材(テクスチャー)選択は耐久性とメンテナンス性、居住性のバランスで決めていきました。
建材・清掃・メンテナンスにおいて、日本のクオリティは世界水準よりはるかに高く、建材面では抗菌機能を有する素材も充実しています。たとえば、珪藻土のように湿度の調整や消臭機能を有する素材や花粉症などの症状緩和に効果がある高機能タイル(抗アレルゲン素材)、マイナスイオンを発生させる壁紙など、必要とされる環境に合わせた選択が可能です。
車椅子での利用が想定されれば、床から高さ90センチくらいの部分は車椅子がぶつかっても痛みにくいタフな材料を選択すべきですし、手術室でストレッチャーを利用する場合は、手術室の壁面を金属板で計画するか、ストレッチャーがぶつかる可能性がある壁面にステンレスを張り込む計画にします。
照明機器でいえば、LEDは色温度のバリエーションが増え、1つの照明器具で色温度や光量を変化できる調光器もあります。皮膚科ではこういった機能が診察の手助けになりますし、眼科で調光機能が必要な場合にも対応可能です。電気温水器は給湯機能で多用しますが、OP用の手洗い時のように電気温水器で減圧されたお湯しか供給できず、ガスが使用できないビルの中にあるクリニックの場合は、減圧されずにお湯を供給できる電気瞬間湯沸器もあります。
今日、クリニックの計画にあたり全12回の本コラムに記載させていただいたさまざまな事柄に加え、建材や機器は常に進化してより多機能な製品が出てきています。クリニックを造っていく上で、ドクターと想定する患者さんのニーズや快適性に合わせてチョイスしていくことは、クリニックの完成度に関わる重要な要素です。
最後に、今回で本コラムは最終回となります。一年にわたり大変ありがとうございました。クリニックを計画されているドクターや、関係者の皆様のご参考になれば幸いです。
※サブウェイタイル1
※サブウェイタイル2
[瀋陽 向氏眼科病院 床:600角タイル 壁:突板貼り]
[ 瀋陽 向氏眼科病院 床:600角タイル 壁:突板貼り]
[抗菌壁面材]
[抗菌壁面材]
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