医院開業コラム
わが子を医師にするための9つのルール 第2回
2015.10.29
こんにちは、藤崎です。
皆さんはご存知でしょうか? 今、受験界は「空前の医学部ブーム」なんですよ。
昨今の受験状況といえば、少子化で受験者数は激減しています。加えて、医学部の募集人数は過去7年間で19%も増員されました。したがって医学部受験は皆様が受験された頃と比較すれば、確実に「楽になっている」はずなのです。にもかかわらず、受験倍率は上がっているという異常な状況が今なのです!
「わが子を医師に」とおっしゃる皆様には、ぜひその背景を予習し、ご自身の時代とどう違うのかを知り、過去の記憶をリセットして新しい知識を身につけていただきたいのです。
受験倍率が上がっている原因は次の5つです。
アベノミクス以降、景気は上向いてきてはいますが、地方経済の立ち直りに関しては依然厳しい状況にあります。その中で唯一「医師」のみが経済的安定と社会的地位を確立しています。医師の皆様は、「イヤイヤ、ウチなんか!」と謙遜されるかもしれませんが、事実、そう見えてしまうのです。
都心であれば、国立大学を卒業し、大企業本社や外資系企業に勤める“年収1億超のスーパーサラリーマン”や高級官僚がゴロゴロいるのですが、地方では、たとえ東大を出ても活躍の場がないというのが現実です。そのため、東大・京大の一般学部よりも、地方大学でも国公立医学部へ、というのが今のトレンドなのです。「俗に言う東大離れ」というものですね。
そして、わが子を医師にしたいという親の願いは、中部より西がヒートアップしています。いわゆる「西高東低」ということです。
現在受験生を抱えている親御さんたちは、バブル期の就職売り手市場から“氷河期”といわれる就職多難時代への急速な社会変化を経験し、その後の年功序列、終身雇用の壊滅を目の当たりにしてきました。学生時代の就職ランキング上位の一流企業でさえ破綻し、自らもリストラや早期退職の恐怖を体感している世代なのです。そんな社会状況から、「企業の肩書きをとっぱらった時に自分に何が残るのか」と自問し、「資格」の必要性を痛感しています。「わが子には食いっぱぐれのない職業を」という親の切なる願いがそこにはあるのでしょう。弁護士でさえ、司法試験には合格したけれど、就職先がない、報酬の自由化によって収入が安定しないといった状況を見ると、同じ苦労をするなら医師の方が良いと思う人が増えるのも無理はないでしょう。
私も個別相談を受けていて、全く異業種で活躍されているお父さんが「わが子はできれば医師に!」と口にすることが多いことに驚かされます。まさに「猫も杓子も医師志望」といった状況なのです。
皆様のような医師家庭からされると、無用に倍率を上げるとても迷惑な“けしからんトレンド”とも感じられると思いますが、それが現実なのです。
この一般家庭の医学部受験を可能にしているのが「超少子化」なのです。
一人っ子が主流になった昨今、親の期待も、親の資本も、いや!両祖父母の孫に対する期待と、資本の集中が、一般家庭の私立医学部進学を可能にしているのです。
高度成長期の子だくさんの時代には、当然、1人あたりの教育費は分散されていました。しかしながら、一人っ子に自分たちの老後を依存しなくてはならない超少子化の現在、一点集中の子育てが、医師という“最高峰”へと誘っています。また、いわゆる「6ポケッツ」(両親+両祖父母)によって、私立医学部の学費という最大の問題点をクリアーできるようになったのです。
私自身も「かわいい孫が医師を目指すなら、田んぼや畑はなんぼでも売ってやる」と言い切る、ジイジ、バアバとたくさんお会いしてきました。
現在の大学医学部在籍者数の3分の1が女性です。北里大学医学部の平成27年度入学者の女性比率は49.6%にまで達しています。
日本における女性の社会進出は目を見張るものがあります。しかし実質的な男女格差はまだまだ埋まっていません。一般企業で総合職として企業の上位を目指すには、男性の数倍の努力が必要であり、子育てを機にキャリアを手放さざるを得なかかった女性も多いはずです。育児がひと段落して復職しようとしても既に会社にポストはなく、現役時代の数分の一の収入に甘んじなくてはならないのが現状なのです。
そうした中で、本当の意味で男女差別がない職場が医師という職業なのでしょう。
「梅ちゃん先生」や「ドクターX」など女医が活躍するドラマなどの影響や、「理系女子ブーム」もあるのかもしれませんが、女性が確実に収入や社会的地位を獲得できる資格として、有能な女性が医師を志すのも自然のなりゆきなのかもしれません。
女性であっても、一人っ子であれば、親と一族の期待と資本はそこに集中するのです。開業医の承継者が女の子であればなおさらのことです。
以前は、「女性は現役でなきゃ!浪人はちょっと……」という風潮が強かったのですが、現在では、医学部に限っては「浪人してでも!」と変わってきています。ちなみに、東京女子医大(当然みな女性ですね)の平成27年度合格者の現役率は22.8%。約8割は一浪以上となっています。
そして、最後は「受験産業の生き残り戦争」です。
「2018年問題」をご存知でしょうか? 超少子化ゆえに、大学受験者数は2018年にさらに激減し、一般私立大学の5割が定員割れを起こすようになると言われています。そのような中、今まで挙げた4つの背景から、医学部だけが唯一倍率を上げているのです。その余波で、私立の中学、高校は「医学部にどれだけの合格者を輩出したか」によって評価を受けるようになりました。毎年、週刊誌で発表される「東大合格者数」を争ったのは過去の話なのです。中学高校の生き残りをかけて「医学部専門コース」をつくり、たとえ女子高でも医学部を目指すように学校をあげて啓発しているのです。
当然ながら塾もそのトレンドに便乗し、少子化ゆえの「単価アップ」を図る医学部専門予備校、医学部専門家庭教師がそこかしこに設立されるようになったのです。
こうした5つの背景から、医学部受験の難度は、皆様が医師免許を取られた時代より格段に上がっています! これが新しいルールなのです。
もしかしたら、おじいちゃまが「あの私立は金さえ積めば誰でも入れるんだ」などとおっしゃるかもしれません。しかしそれは遠い過去の話です。偏差値60を下回る医学部は日本中もうどこにもありません。偏差値60といえば早稲田の教育学部と同程度の難度なのですから。ご子息が進む道がどれほど難しくなってきているか! 医師家庭の皆様にこそ、判っておいていただきたいのです。
とどめの一撃が、先日の日経にも掲載された「2020年からの医学部定員の削減」です。“人口減少と病院ベッド数の削減を見据え、医師の数を抑えて医療費の膨張を防ぐ”というのが大義名分です。是非はともかく、決まった方向に動くのが政治でございます。
次回以降は、「さらに狭くなるこの門をくぐり抜けるルール!」をお伝えしてまいります。
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