開業した先生の声
Vol.1
2020.10.19
クリニックの開業を目前に控えたドクターが、今何を考え、悩み、いかにして困難に立ち向かったのか……そんな開業の準備期間、いわば“エピソード・ゼロ”にフォーカスする本シリーズ。巷にあふれる成功体験記ではなく、開業医の序章を紐解くことで、よりリアルなクリニック開業に迫ります。
初回は、大阪市城東区の医療モール「クリニックステーション野江」に開業される脳外科医の岩田 亮一先生にお話を伺いました。「脳のかかりつけ医になりたい」と話す岩田先生の“始まりの物語”を紐解きます。
当院の理念は、「脳を守る」です。その実現のためには、病気を早期発見、治療をできる環境づくりが必要。そこで私たちは、“脳のかかりつけ医”として、地域の方々と密接に関わっていきたいと考えています。同時に開院後も最新の医学を学び続け、最新設備を整えた先進的な医療を行いたいと考えています。
まずは、体の些細な異常にもいち早く気づくために、MRI検査を気軽に受けてもらえるようにします。そして何より、脳に関係する可能性がある悩みについて“気軽に話せる窓口”として機能したいですね。例えば頭痛やめまいなど、脳とは関係ないかもしれないけど、「ちょっと不安」という段階でぜひ来院してもらえたらと思います。
脳神経外科と聞くとハードルが高く感じてしまう方も少なくないと思いますが、私は“脳外科医と患者”である前に“人と人”としてお付き合いをしていきたいので、遠慮なく頼ってもらえたらうれしいです。私は幼少期からおじいちゃんになついていて、山や川によく連れて行ってもらいました。その祖父がパーキンソン病を患ったときに、MRI設置のクリニックを開業してほしいと懇願されたんですね。開業前には他界してしまいましたが、いまはそれが実現されます。皆さんが安心して自分らしく人生を楽しみ、そして人生の目標を達成する……そのお手伝いができるクリニックを目指していきたいです。
私が医師を目指すようになった最も大きなきっかけは、中学1年生のときに阪神淡路大震災を経験したことです。全壊した家から命からがら逃げ出すとき、ガラス片で足にケガを負ってしまって、近所の病院に駆け込みました。結果的には無事に傷口を縫合してもらえましたが、その際に医師から「これが最後の縫合糸だった」と言われて……。もし縫合糸がなくて、あのまま血が止まらなかったらと考えると、ものすごい恐怖に襲われました。身をもって医療のありがたみを実感した出来事でした。
それから、以前父が病気を患って外科医の先生にお世話になったことも、医師への憧れを強めたきっかけです。外科医の道を進んだのは、研修医時代にさまざまな治療の現場を見るなかで、「目の前に倒れている人を自分の手を動かして助けられる医者になりたい」と考えるようになったのが理由です。
そして、どうせ外科医をやるなら難しい病気を治したいと思い、脳外科を選びました。脳はとても繊細な臓器で、一度損傷すると再生することはありません。しかも脳の病気は日常生活の動作に影響を与えることが多く、その治療は患者さんのQOLを大きく左右します。プレッシャーもありますが、非常にやりがいのある仕事だと感じています。
[執刀をされる岩田院長]
これまでは四六時中、患者さんのこと、手術のこと、研究のことばかりを考えて生きてきました。設計士の妻と共働きなのですが、家事はほとんど任せっきりで申し訳ないと思っています。仕事柄、常に緊張を強いられるのでジョギングや読書などで気分転換を図ることが多いです。休みの日に子どもと外出することが一番の楽しみですね。
[ご家族揃ってお出かけの一枚]
大学病院では、脳腫瘍や脳血管障害などといった難しい手術を数多く経験してきました。もちろん患者さんには感謝されましたし、やりがいも感じていましたが、手術のみに特化して働くことに対して「本当にこれだけでいいのか」と徐々に疑問を感じるようになったんです。
大学病院に来る患者さんの多くは、すでに何らかの病気を診断されている方です。でも私は、もっと早い段階から患者さんの悩みに寄り添えるようになりたい。例えば、転んで頭を打って救急車で運ばれてきた患者さんがいたら、ただ手術をするだけではなくて“どうして転倒したのか”にまで踏み込んでサポートできるようになりたい。そういった気持ちが開業への想いを強くしました。
あとは、周りの方々の影響も大きいですね。現在も外来を担当している、藍の都脳神経外科病院の理事長先生は、私が尊敬するドクターのひとりです。脳外科医としてはもちろん、経営手腕も非常に優れていて、海外への分院展開など広い視野を持って活躍されています。私の父親も会社の経営者だったこともあり、着実に夢を叶えていく姿は私にとって非常に大きな刺激になりました。
これまで自分が培った人脈を生かして、病診連携をしっかり行いたいと考えていましたので、場所選びではその点を重要視しています。特に現在私が外来を担当している藍の都脳神経外科病院や大阪府済生会野江病院とは今後も連携を考えていますので、その2院との距離は重要なポイントでした。
脳神経疾患の患者さんは麻痺などの後遺症がある方もいるため、通院時の利便性はとても大切です。また、何か気になることがあるときに早期に受診していただくには、クリニックの存在を知っていただいておく必要があります。そうした条件を考慮すると、クリニックステーション野江は駐車場が完備されており、区画も1Fを確保できた点、また地域の方が多く往来する立地面での非常に魅力的な物件でした。
また、このエリアは人口が密集した地域になるのですが、周辺には大変多くのクリニックがあります。今後近隣のクリニックとMRIを共同利用するといった連携ができれば、地域の患者さんのためにもなりますし、当院にとって経営的なメリットにもなると考えました。
物件を探し始めてからクリニックステーション野江への入居が決まるまで、実は2年ほどかかっています。先に述べたような条件で物件を探すと駅前や幹線道路沿いが候補にあがりますが、賃料などの条件面でほとんど折り合いがつきません。銀行や不動産屋に相談しましたが、条件に合うところには出会えなくて。途方に暮れていたところに、アイセイ薬局さんから、こちらの医療モールの物件提案をしていただきました。
開業に関する書籍を片っ端から読み漁るなど、自分一人でできる努力はもちろんしましたが、両親や親せき、先輩や後輩など、周囲の方に相談することで得られるものは大きかったです。脳神経外科の開業となると投資額も大きくなりますし、批判的な吟味も含めて、やはり家族が一番親身になってくれました。
実際の開業準備では場所選びに限らず、本当に大変で、勤務医ではわからないことばかりです。業者とのさまざまな商談に追われ、毎日たくさんのことを決断していかなければなりません。加えて、患者さんが来てくれるのかという不安も付きまとう……開業に向けて動き出してからは、悩みの多い日々を過ごしてきました。
経営者の先輩である父には厳しいアドバイスをたくさんもらいましたし、信頼できる先輩のクリニックにも何度も足を運んで意見を乞いました。開業にあたってはコンサルタントにサポートを依頼したのですが、それも先輩医師から紹介してもらった会社にお願いしたんです。
[大学時代から続く、信頼できる先輩医師とのつながりは貴重な財産]
当院の大きな特徴のひとつは、MRIによる検査ができること。MRI検査は脳外科に限らず、さまざまな科目で必要とされるものです。利用のニーズも高まっていますから、ぜひそれに応えたいと考えています。また、患者さんだけでなく、地域のクリニックにも貢献できる存在になっていきたいですね。そのためにも近い将来、新たにもう一台MRIを購入することも考えています。
介護領域への進出は以前から考えていて、福祉施設と連携などによりリハビリも手がけたいです。それから、コロナ禍の今は難しいですが、予防医療や脳ドックなどの検診をやっていくので、医療ツーリズムにも対応できればと。
個人的なことでいうと、提携病院での手術は今後も続けていきたいと思っています。私は開頭手術もカテーテルもやるので、後進の指導にも寄与したいですね。一緒にやってくれるドクターが集まれば、いつかサージクリニックを開業してもいいかもしれません。いずれにせよ、やりたいことはたくさんあります。一人でも多くの患者さんに、そして地域に貢献できるように、一歩ずつ前進していければと思います。
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脳外科で対応する疾患は、早期発見、治療できるかどうかが患者さんの生死、そしてその後の人生の明暗を大きく左右します。岩田院長が目指す“脳のかかりつけ医”としての在り方は、これから多くの患者さんの未来を明るく照らすことでしょう。今後のさらなるご活躍にも期待しています。
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