STEP9
クリニックは、ハードが出来上がりスタッフが集まったら営業開始、というわけにはいきません。医院開業にあたっては、保健所や厚生局に届出や手続きを行う必要があります。
まず、各届出・手続きを行う前にスケジュールに注意しておきましょう。
一般的、個人がクリニックを開設し保険診療を行う場合、保健所に「開設届」の提出を、厚生局に「保険医療機関指定申請」の手続きを行うことになるのですが、後者は開設届が受理されたのちでないと申請できず、また受理までに1ヶ月程度かかります。
詳しくは後述しますが、開業と同時に保険診療を行いたい場合は、開業日の約1ヶ月前には、保健所に開設届を提出しなくてはなりません。
以下に、一般的なスケジュールを掲載します。
なお、ここでご紹介する届出や手続きは、個人が無床もしくはベッド数19床以下の診療所を開設する場合となります。個人以外(医療法人)が開設する場合やベッド数が20床となる場合などは、届出や手続きが異なります。必ず、事前に確認を行ってください。
管轄の保健所に提出が必要となる「開設届」ですが、医療法で開設後10日以内に届け出るように定められています。
この開設届は、診療所として診療行為を可能にするものです。従って、実際に医院開業後に提出をしてしまうと、それが受理されるまでは診療行為さえも出来ない状態になってしまいます。また、開設届受理後に行えるのは自由診療だけになります。保険診療を行うには、別途、厚生局に「保険医療機関指定申請」をする必要があります。詳しくは後述します。
一般的なタイミングとしては、クリニックの内装工事が完了したタイミングで開設届を提出することが多いです。これは、提出後に保健所によって立入検査が入る場合があり、その際に部屋割りなど構造設備に関する確認が行われることがあるためです。
立入検査では、構造設備以外にも管理運用面での指摘を受けることもあります。例えば、医療法で定められている院内掲示はされているか、開業時に必要となる書類準備や医療安全管理方針や個人情報管理方針の書類策定などがされているか、消化器やスプリンクラーが設置されているか、など複数の項目でチェックされます。
なお、院内掲示とは、医療法で下記の内容をクリニックの入口や受付または待合室付近の患者の見やすい場所に掲示することを定められているものです。
ここでいう「管理者」にも取り決めがあるので、事前に確認をしておきましょう。
診療所としての開設届が受理されたら、保険診療(保険請求)を行うために、所轄の厚生局に「保険医療機関指定申請」を行います。この申請をしない限り、保険診療は出来ませんので注意しましょう。
申請は月1回、受理されるまでに約1ヶ月かかります。各厚生局事務所によって提出期限が異なりますが、提出期限が各月10〜20日と定められており、受理後の翌月1日付けで指定を受けることになります。
つまり、提出期限に遅れてしまうと、保険診療が開始できるタイミングが1ヶ月後ろ倒しになってしまいます。開業後の資金繰りなどにも多大なる影響を与えるので、この点だけは十分に注意しておきましょう。
保険診療を行うに際して、診療報酬の仕組みをきっちり把握しておく必要があります。厚生労働省が「保険診療の理解のために」という資料を公開していますので、そういったものをよく読み、事前に確認をしておきましょう。
開設届の提出や保険診療の申請を行う前に、各担当先に事前相談しておくことをおすすめします。提出する書類が一度で受理されることは少ないためです。
例えば、開設届では、クリニック名が近くに同名・類似名があったり、医療法に抵触したりする場合に使用できず修正が必要になったり、レイアウトが法に触れるために指導・変更が入る可能性があったり、といったことが起こり得ます。
ここでご紹介している開設届や保険医療機関指定申請以外にも、下記に上げたように提出が必要となる書類は非常にたくさんあり、その大多数が院長自らが準備、記入し、提出をしなくてはなりません。
保健所 | 診療所開設届 診療用X線装置装備届け 麻酔管理者・施設者免許申請書 結核予防法指定医療機関指定申請書 診療所使用許可申請書 |
---|---|
厚生局 | 保険医療機関指定申請書 |
社会保険事務所 | 保険医登録申請書 保険医療機関指定申請書 |
福祉事務所 | 生活保護法指定医療機関指定申請書 |
労働基準監督署 | 労災保険指定医療機関指定申請書 労働保険の保険関係成立届 |
地区医師会 | 入会申込 母体保護法指定医師指定申請書 |
都道府県税事務局 | 個人事業税の事業開始等申告書 |
税務署 | 個人事業の開業届出書 青色事業専従者給与に関する届出書 旧吉原事務所などの開設届出 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 |
公共職業安定所 | 雇用保険適用事務所設置届 |
これらの書類を抜け漏れなく、不備なく揃えるのは、経験のあるなしに関わらず一人で行うのは容易ではありません。また、院長は同時期にさまざまな意思決定に追われます。適宜、コンサルタントなどのサポートを受けて、ご自身のやるべきことだけに注力できる環境を構築されることをおすすめします。
この記事をシェアする