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医院開業の基礎知識

STEP7-2

医療DX

開業時に必ず検討すべき「主要な医療DXシステム」

医院開業において、安定した通信インフラは、電子カルテやオンライン資格確認、画像診断など医療の安全と質を支える重要な基盤となります。現在の医院開業では、単にネットワークを繋ぐだけでなく、国が進める「医療DX」に対応したシステム機器を遅滞なく導入し、それらを安定して稼働させるためのネットワークを含めた弱電環境を一体として計画することが不可欠です。

医療DXの基盤となるシステムは、開業時の内装設計やネットワーク設計と密接に連動します。そのため早期から選定と準備を進める必要があります。

電子カルテシステムの選定

電子カルテはクリニックの診療の核となります。大きく分けて2つのタイプがあり、クリニックの診療スタイルや予算に合わせて選定します。

①クラウド型電子カルテ

サーバーを院内に置かず、インターネット経由で利用するシステムです。初期費用を抑えられ、院外からのアクセスや法改正に伴うアップデートが容易です。ただし、インターネット回線の速度や安定性に大きく依存するため、強固なネットワーク環境の構築が大前提となります。

②オンプレミス型(院内サーバー型)電子カルテ

院内に専用サーバーを設置するシステムです。院内LANのため動作が高速で、カスタマイズ性も高いのが特徴です。一方で、初期費用や定期的なサーバー更新費用が高額となる傾向があります。

なお、政府が掲げる「医療DX令和ビジョン2030」では、2030年末迄に全ての医療機関で電子カルテ普及率100%が目標として掲げられており、厚生労働省は2027年度以降のシステム更改ではクラウド型の導入を推奨しています。実際に現在の新規導入およびリプレイス市場ではクラウド型が主流となっており、これからの導入であればクラウド型電子カルテの導入をおすすめします。

オンライン資格確認とオンライン請求の義務化対応

現在の医療機関において、マイナンバーカードを利用した「オンライン資格確認(以下「オン資」)」の導入は原則義務化されています。また、毎月のレセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求についても、このオン資のインフラ(回線・端末)を共通化して運用することが原則となっております。

  • 必要な機器・環境

    顔認証付きカードリーダー、オン資専用の端末(PC)、そして社会保険診療報酬支払基金等のネットワークと安全に接続するための「IP-VPN回線」または「インターネット接続(IPv6)環境」が必要です。

  • データ連携のメリット

    オン資の導入により、患者の特定健診情報や薬剤情報が電子カルテ上で閲覧可能となり、より安全で質の高い医療の提供が可能となります。また、毎月のレセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求ともインフラを共通化できます。

電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスへの対応

政府が推進する医療DXの次なるステップとして、「電子処方箋」や「電子カルテ情報共有サービス」への対応が挙げられます。

  • 電子処方箋

    従来の紙の処方箋に代わり、データを国の中央システムを介して薬局と共有する仕組みです。重複投薬の防止などに役立ちます。

  • 電子カルテ情報共有サービス

    国の医療機関や電子処方箋管理サービスと連携し、患者の過去のカルテ情報やアレルギー情報、紹介状(診療情報提供書)などを安全に共有・閲覧できる仕組みです。これらもオンライン資格確認のネットワーク基盤を利用して稼働します。

予約システムおよび WEB問診システム

院内混雑緩和やスタッフの業務効率化、患者の利便性向上のために不可欠なDXツールです。

  • 連携と運用

    WEB等からいつでも予約が可能になり、事前にWEB問診を入力してもらうことで、患者の来院前に症状を把握することができます。

画像診断・検査機器のデジタル連携(PACS)

レントゲン、CT、超音波(エコー)、内視鏡などの画像診断装置や、検体検査機器のデータをデジタル化し、電子カルテと連携させるシステム(PACSなど)です。

  • 連携と運用

    撮影・検査後、即座に診察室のモニターや電子カルテ画面に高解像度の画像・結果が表示され、スムーズなインフォームドコンセントが可能になります。

キャッシュレス決済および自動精算機

クレジットカード、電子マネーなどのキャッシュレス決済や、自動精算機・スマート自動釣銭機の導入です。会計待ち時間を短縮し、スタッフの現金管理リスクや作業負担を軽減します。

インフラへの影響

これらのシステムはすべてオンラインでリアルタイムに通信を行うため、院内ネットワークの負荷は以前よりも確実に高まります。開業時からこれらを見据えた回線スペックの確保が求められます。

医療DXを支える「弱電環境」

  • 「弱電環境」の重要性とリスク

    (1)弱電設備・弱電環境とは?

    弱電設備は、LAN配線、情報コンセント、Wi‑Fi機器、防犯カメラ、放送設備など弱電(情報系)機器そのものや配線の「設備」を指し、照明や空調を動かす強電(電力)と区別されます。
    弱電環境は、上記の設備に加え、ネットワーク設定や運用まで含めた弱電系システムが問題なく利用できる「状態全体」を意味します。医療DXを進める上では、単に設備を導入するだけでなく、これらが安定して稼働する「弱電環境」を一体として計画することが極めて重要とされています。

    (2)専門業者に依頼しない場合のリスク

    業者選定の際に、専門業者に依頼せず、家電量販店やネット通販で機器を購入し、内装業者経由で電気工事業者にLAN配線を依頼し、NTTやプロバイダ申請、設置、設定、故障時の対応を自ら行うケースもありますが、システム障害時には電子カルテへのアクセス不能や画像診断の遅延が発生、診療の質を大きく下げるだけでなく、診療自体の継続に支障を来たすリスクがあるため、専門的なノウハウを持つ業者に依頼することをおすすめします。

    信頼できる弱電・ネットワーク業者を選ぶためのポイント

    医療特有の要件への理解と実績がある業者を選ぶことが、医療DX成功への近道です。

    (1)医療機関における実績が十分にあるか

    現在の医療機関では、電子カルテや画像診断装置など多くの情報をネットワーク経由でやり取りするため、これらの機器の使用を考慮したLAN配線や、サーバーの処理能力を考慮した設計が可能かを確認してください。単なる価格比較ではなく、医療機器メーカーとの連携実績や提案力も重視しましょう。

    (2)提案書の内容は適切であるか

    必要な設備と仕様に見合った適切な提案書・見積書を提示し、将来の拡張性(将来の医療DXシステムの追加など)まで考慮した提案をしてくれる業者を選ぶことをおすすめします。オーバースペックで高価な仕様や機器を提案する業者も少なくないため、注意が必要です。

    (3)ワンストップサポートは対応可能か

    開業前の多忙な時期に、NTT回線やプロバイダの煩雑な申請手続き代行から、インターネット、電話、Wi-Fi、セキュリティ、音響、カメラまで、必要な通信インフラ全般を一括で設計・施工・保守できる体制が整っていると、手間を大幅に削減することが可能です。

    (4)十分な保守体制を有しているか

    施工後のアフターサービスや保守体制が整っていることが極めて重要です。インターネットが止まると診察(特にクラウド型電子カルテやオンライン資格確認)ができなくなるため、トラブル発生時に「当日対応」可能な業者が望ましいです。契約時に保守内容や緊急時の対応範囲を確認することが大切です。

    施工時の重要な注意点

    (1)強電と弱電の「棲み分け」

    強電の太いケーブルから発生する微弱な「磁波(ノイズ)」が弱電の通信線に干渉すると、カルテの通信遅延やWi-Fiの不具合の原因となります。これを防ぐため、強電と弱電の配線を離す設計(物理的距離の確保)や、高度なノイズ遮蔽技術(シールド施工)が重要です。

    (2)内装工事会社との連携と夜間・休祝日の柔軟な対応

    医療機器との干渉を避けるための導線設計には院内のレイアウトや建築工事との連携も重要です。開業までの限られた時間の中での施工では、急な仕様変更や想定外の事象が発生することもあるため、夜間・休日施工に柔軟に対応できることも業者を選ぶ際のポイントです。

    理想的なネットワーク環境の構築目安

    (1)推奨回線

    インターネット、光電話、オンライン資格確認・オンライン請求など複数のサービスをまとめて利用するため、NTTの回線サービス(フレッツ光ファミリータイプなど)を必ず1契約は導入する必要があります。

    (2)スピードの目安

    クリニックでは最低50Mbps以上のインターネットスピードをおすすめします。特にクラウド型電子カルテを利用する場合、システムによっては最大350Mbpsが必要になるケースもあるため、過不足のない適切な回線を選ぶことが大切です。スピード不足が予想される場合は、他社高速回線を追加で導入する検討も必要となります。

    (3)NTT回線の開通スケジュール(最大の難所)

    最も時間と労力を要するのがNTTの電話番号取得と回線工事です。NTT回線の開通は、回線申込、現地調査、開通工事まで、原則約2カ月が必要です。混雑時期(年度末、連休近く)に申請が遅れると開業に間に合わない事態も想定されます。また、工事当日に想定外の事象(鍵の手配漏れ、ビル側設備の不備など)が発生すると、その場で工事が中断、別日対応となり、スケジュール全体が大きく遅れるリスクがあるのでご注意ください。

    院内LAN環境の構築とセキュリティ対策

    (1)LAN環境の仕様

    LAN環境は安定稼働のため「1ギガ」を推奨します。それ以上のスペックは現状ではオーバースペックとされています。

    (2)機器選定と設置

    安定稼働と高性能を誇る業務用機器を選定します。基幹となる装置は弱電盤もしくはバックヤードに設置し、受付周りへの設置はトラブルの原因となるため避けることをおすすめします。

    (3)医療情報を守るセキュリティ対策

    クリニックでは患者さんの大切な情報を取り扱うため、通信ネットワークの安全対策が極めて重要です 。なお、厚生労働省では2026年6月に医療情報システムの安全管理に関するガイドラインを改定(第7.0版)、医療DXの進展とサイバー攻撃の深刻化を背景にクラウド利用を前提としたセキュリティの強化が必要となっています。
    • ネットワークの分離(重要)

      院内のネットワークは「電子カルテや医療機器用」と「スタッフのインターネット用」を必ず分けておきます。これにより、万が一スタッフ用のPCがウイルス感染しても、医療情報への波及を防ぐことが可能です。Wi-Fiについても「職員用」と「患者さん(フリーWi-Fi)用」を必ず別設定にします。

    • 法人向け機器の採用とアクセス制限

      ルーターやWi-Fiは家庭用ではなく信頼できる法人向けを使い、強力なパスワードを設定してください。スタッフが危険なサイトを開かないよう、フィルタリングやアクセス制限をかけることも有効です。

    • 専用回線・固定IPの活用

      電子カルテやオンライン資格確認の機器は、外部から不正アクセスされないよう、専用の回線や固定IPを使うと安全性が高まります。

    • サイバーセキュリティ対策

      上記に加え、UTM(統合脅威管理)の導入と、ネットワーク機器の定期的なファームウェア(ソフトウェア)更新を基本対策としておすすめします。

    長期安定稼働のための品質保証と保守

    (1)ネットワーク・配線・IP設定の「まとめ資料」整備

    将来的なメンテナンスやトラブル対応を容易にするため、以下の資料を業者に作成してもらい、整備しておくことが重要です。
    ※作成しない業者も多いため、事前確認が必要です。
    • 機器構成図(最終形)

    • LAN配線図面(ケーブル番号が記載されたもの)

    • IPアドレス附番表(IPアドレスの重複を防ぐため)

    (2)ネットワーク保証書の発行

    設置時のインターネットスピードを計測してもらい、品質を証明する「ネットワーク保証書(回線スピード記録)」も発行してもらいましょう。

    (3)保守契約とバックアップ対策

    工事完了後は、必ず保守契約を結んでおくことをおすすめします。トラブル発生時に「当日対応」が可能な業者を選びましょう。またNTT保守範囲(NTT局設備、NTT回線、ONU<光回線終端装置>、光電話ルーター、NTT設定)は、NTTしか復旧対応ができません。NTTの「24時間出張オプション(月額3,000円税別)<2026年7月時点>」への加入も検討しましょう。また、メイン回線が障害で不通になった際、NTT回線復旧まで電子カルテなどの通信を確保するバックアップ対策を提案してくれる専門業者を選ぶと、診療停止リスクを最小限に抑えることが可能となります。

    保守の範囲

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