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医院開業コラム

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ビジョンを具現化するクリニック創りの羅針盤

ビジョンを具現化するクリニック創りの羅針盤

「大きな医療機関」と「小さな医療機関」

  • 医院開業のポイント

2021.05.11

一般の方々は、「病院」と「クリニック(=診療所、医院)」の言葉の使い分けをされていないことが多々あります。どちらも医療機関ですが、「病院」と「クリニック」は地域における役割も、医療における位置づけも違う施設です。

病院から入院ベッドや高度な検査、治療の機能を除けば、もしくは病院を小さくすればクリニックになると考えている方もおられますが、これらの設計は違う視点で行われるべきです。そこで今回は、「大きな医療機関」と「小さな医療機関」の違いについて解説していきます。

 

医療施設の違い=特性の違い

私は医療施設を3つに分けて考えています。一つ目がいわゆる「病院」、二つ目が「大規模クリニック(19床以下の入院ベッドがある、広さが何百坪もある、診療や検査が複数階にわたる、多くの診療科目を扱うなどの大きなクリニック)」、三つ目が日本国内で既存件数も新規開業件数も最も多い、小規模なごく普通の「クリニック」です。

「病院」と「大規模クリニック」も違う施設ですが、本コラムでは“ごく普通のクリニック”の特性を把握するために、「病院・大規模クリニック」と「クリニック」の2つに分けて考えようと思います。簡単に言えば、「大きな医療機関」と「小さな医療機関」です。以下で、それぞれの違いを見ていきましょう。

①組織の規模が違う
「病院・大規模クリニック」は大きな組織で施設規模も大きく、多くの機能を持ち、そこで働く従業員も多いです。その一方、「クリニック」は小さな組織で施設規模も小さく、大きな施設に比べると機能は少なく、働く従業員も大幅に少ないといえます。

大人数の組織では、従事する職員の専門性や役割分担を明確にし、要素(人や仕事や部屋など)をツリー型(縦割り)で管理しないと業務がうまく流れず、その特性を発揮することができません。そうした背景があるため、建築(内装)の計画もツリー型(縦割り)の計画をするほうが使いやすくなります。

一方で、少人数の組織は人も役割も部屋割りも複雑に絡み合う傾向があり、大まかな役割分担はするものの、個々を見ると業務や役割を兼務したり、部屋を兼用したりする面が出てきます。つまり、要素(人や仕事や部屋など)がセミラティス型(網状交差)的になっているのです。よって、小さな組織のための建築(内装)の計画は、セミラティス型的な計画をするほうが使いやすくなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(図:クリストファー・アレキサンダーによるツリー構造(左)とセミラティス構造(右))

小さな組織をツリー型で計画してしまうと「スタッフがいくらいても足りない」「必要な部屋がたくさんになりすぎて全体面積が足りない」といった状態になります。

②組織での働き方が違う
私は、大きな組織での働き方の特性を“分担”と捉えています。医療機関で考えると、病院や大規模クリニックでは、受付スタッフは受付のみの仕事をし、会計のスタッフは会計のみを行い、薬は薬局のスタッフが対応し、事務や総務のスタッフもおり、看護師はほとんど看護師の仕事しかせず、検査などは検査技師か検査専門の先生が行い、先生方も診療という医療全体のメイン“部分”を担っています。病院や大規模なクリニックでは、先生や看護師が受付に行くようなことは、ほとんどありません。

一方、クリニックでは、受付スタッフが会計や場合により薬や尿検査などの手伝いをすることもありますし、看護師が受付に絡むこともあります。先生も診療だけではなく、検査もしますし、レセプトや経営などにも絡みます。クリニックでは、先生や看護師が受付に行くことがあり得るのです。少ない人数で業務を効率的に回そうと思えば、当然の姿です。こうしたことから、私は小さな組織での働き方の特性を“兼務”と捉えています。

私は、小さなクリニックでは少人数で効率よく業務を回すために、スタッフ全員が全体の状態を意識しつつ、患者さんの状況にも目を配り、お互いの状況を気にかけて仕事をし、場合によってはフォローできる働き方が望ましく、かつそうした環境を作り出しやすい設計が好ましいと考えています。

③先生の働き方が違う

大きな医療機関におられたときと、クリニックを開業されたときでは、先生の働き方が一番変わります。現在の勤務先の医療機関ではエックス線などの検査を検査技師が担当しているかもしれませんが、クリニック開業当初は、最低人数で回すために先生が行うことが多いです。

また、先生の立場も変わります。開業すると各スタッフの仕事や状態も気にかけ、現状を把握しながら、また目先の医療行為をしながら、ビジョンを持って経営にあたることが大切になります。そういう意味でも、先生の働き方や全体をそういった視野で見られるような設計が好ましいといえます。そのためにも、私はクリニックの計画の中で、先生の居場所をできるだけ真ん中に持ってくるように意識をしているのです。

④だから、設計の考え方が違う
以上を踏まえ、病院・大規模クリニック(大きな組織)とクリニック(小さな組織)では、設計の考え方を変える必要があると私は考えています。

要素(人や仕事や部屋)の関係をまとめると、下の図のようになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな組織では人や業務を分け、各々に割り当てられた部屋を作り、それらをつなぐ“つなぎ方”を考慮することで仕事が進めやすい施設となります。しかし、小さな組織では、多少業務がかぶったり、他の人と接したりすることで、兼務のしやすい施設になります。そのため、大きな組織では人も業務も部屋も単純にできますが、小さな組織ではそれらの関係が入り混じるのです。

「単純に病院や大規模なクリニックを小さくすれば、一般的なクリニックになる」という考えは、こうした視点で考えると問題があります。各々の組織や働き方などの特性を考慮すると、違うものだと捉えていただいたほうがよいでしょう。

 

クリニックにおける2つの平面計画の考え方

医療施設の設計の本には、クリニックの機能を次のような概念図で説明しているものを多く見ます。

 

 

 

 

 

これらの概念図は、前述の考え方に当てはめると、病院や大規模クリニック(大きな医療機関)の考え方に近いといえます。

一方、私はクリニックの概念図を次のような描き方で表現します。

 

 

 

 

 

これらの違いは、各要素(部屋、機能)を線でつなぐか、線を使わないかです。

ある50坪ほどの整形外科さんの例をご覧ください。先生が他社さんから提案されたのが、次のような図面です。

先生は私にこれを見せながら、次のようにお話されました。

  • 何となく使いにくそう
  • リハビリ室の面積(約11坪)はこれ以上とれないと言われたが、狭いと思う
  • テナントが狭いので共用部のトイレを使ってほしいと言われた

そのような先生のお話をお聞きして、私がご提案したのが下記の平面図です。

本案のポイントは、次の通りです。

  • 各機能の分割はしているが、廊下を極力少なくした
  • 個々のスタッフが行う兼務の内容を考慮し、無駄な動きがないようにした
  • リハビリ室を18坪とり、必要であれば22坪(他社案の2倍)まで拡張できる
  • テナント内に車いす使用者用便所を設置

他社さんでは「リハビリ室はこれ以上とれない」と言われたのに、なぜ大きくできたのでしょうか?これらの平面図と概念図を見比べてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他社案は先に説明した線でつなぐ概念図となっており、私の案は極力、線を使わないように部屋と部屋を接するように計画をしています。つまり、廊下をなくして、面積効率を上げたのです。私の経験では、線型の設計を行うときと、面型の設計を行うときでは、面積効率が1~2割ほど変わってきます。部屋と部屋が近づくことで仕事が兼務できるようになるため、業務効率も上がります。

私は施設面積が小さく従業員数が少ない中で、たくさんの患者さんを効率よく診なければいけない日本の医療保険制度に基づいたクリニックの設計は、線型よりも面型が向いていると考えています。もちろん、先生のご要望やクリニックの特性を考えると線型のほうがいいこともありますので、ご提案の際には線型・面型の各々の特徴をおさえ、先生とディスカッションをしながら、どちらかを選択、または両方を組み合わせた提案をしています。線型・面型の特徴をまとめると次のようになります。

 

保健所に間取りを事前相談することは“外せないタスク”

ちなみに、大抵の保健所では患者さんのプライバシーを配慮する方法を伝えれば面型でも線型でも許可が出ますが、稀に面型的な考え方を頑なに拒む保健所があります。そのため、どのような場合であっても、間取りを決定する前に所轄する保健所に事前相談することを忘れないようにしてください。また、保健所に頑なに拒まれた場合でも、担当の方としっかり相談しながら、こちらの主張もきちんと説明して進めることで、折り合いがつく場合も多々あります。

先生にも、スタッフの方々にも、患者さんにとっても良いクリニックを作っていただくとともに、後からトラブルにならないためにも、この事前相談のタスクは外さないようにしていただきたいと思います。

※このコラムは、2021年5月現在の情報をもとに執筆しています。

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執筆者紹介

  • 長渡 和久
    (ながと かずひさ)

    株式会社コンパス 代表取締役
    一級建築士

    創業者である長渡寛から続くバトンを受け、キンソウグループ(株式会社コンパス・株式会社近畿総合装飾・株式会社近畿装工)の代表取締役社長を務める。 学生時代から “ヒトを幸せにする建築・環境・デザイン” に興味を持ち、商品として消費される建築とは違う良さを広く地域社会に広げ、人の笑顔を繋げていきたいと考え続けており、現在のコンパスの設計の考え方の基礎をつくった。医療従事者の使い勝手の良さ、居心地の良さと共に、そのクリニックが患者さまや地域社会の幸せにも繋がることを大切にしている。クリニックが、そのだけではなく、にも繋がる存在にしていきたいと、コンパスの次なる使命づくりに取り組んでいる。

     

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