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ドクターのための医業経営力養成講座

ドクターのための医業経営力養成講座 第10回

事業承継に向かう姿勢と、後継者に伝えるべき3つのこと

  • 医業承継

2016.08.04

会社(事業)の寿命は?

会社の寿命とはどのくらいなのでしょうか?東京商工リサーチによると、倒産企業の平均寿命は23.5年(2014年調査)、30年にも届きません。平均値で考えると、人が働き始めて定年を迎えるまで会社の寿命はもたないということになります。

日本は他の国と比べて長寿の会社が多いといわれてきました。あるCMにもあったように、それが良い国のひとつの証とされていたとも思いますが、今や状況は一変し、老舗企業も次々に潰れてしまう時代です。業歴10年未満の倒産比率は23.8%、業歴30年以上の老舗企業の割合も30.6%にのぼります。

クリニックの場合、倒産件数は業歴510年未満が全体の2割で最多である、というデータもあります。「起業すること」と「経営(事業を続ける)すること」には、別の能力が求められるといっても過言ではありません。

医療機関の年間開業廃業等の動向データを見てみましょう。
(平成26年厚生労働省医療施設調査より)

厚生労働省の統計によれば、クリニック(一般診療所)の開業等(開設・再開)は、医科7,610件、歯科2,035件、廃業等(廃止・休止)は、医科7,677件、歯科2,144件となっています。これを本コラム第1回に掲げた1年前の同じ統計と比べてみますと、いずれもその数は大幅に増えてはいるものの、注目すべきは、医科、歯科ともに「(開設+再開)<(廃止+休止)」となっている点です。開業等を超える勢いで廃業等が増加しているのです。この状況はしばらく続くかもしれませんが、やがて廃業等の増加が一段落し、開業等が大きく廃業等を上回ると、人口が減少するなかクリニック間の競争は激しくなってくるものと思われます。

身内の事業承継にとって大事なこと

さて、医療法人の事業承継問題は、オーナー会社の抱えるそれと共通します。

最近、生業(=生活を立てるための仕事、家業、職業)という言葉をあまり聞かなくなりました。職業の選択肢が増え、働く人も流動化して、仕事を変えていくことが当たり前になってきています。しかし一方で、AI(人工知能)の目覚ましい発達により、そう遠くない将来には、人間の仕事が機械にとって代わられるという予想が現実味を帯びて伝えられるようになりました。そうした中で、開業ビジョンを掲げて、医業というプロフェッショナルな事業を立ち上げ、地域医療を支え続け、その火を消さないようにするということは、まさに生業と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。筆者自身の仕事もそうかもしれませんが、税理士という立場で、医院開業されている先生方に接するにあたり、そのことを強く感じます。

第1回で述べた通り、ひとたび医院を開業すると後戻りはできません。クリニックは院長先生自身にとって生きがいの場、そしてご家族やそこで働く方々の生活の礎でもあります。
「ゴーイングコンサーン」(継続企業)の前提に立てば、事業承継は現経営者から次世代の経営者へのバトンタッチという、ひとつのイベントに過ぎません。事業を引継いだ後は、後継者による新たな経営が始まります。ですので、事業承継というイベントについて、単に経営者自ら身を引くという後ろ向きの姿勢ではなく、むしろ今後も事業を継続させるために、計画的、積極的に行動することが重要です。

確かに、医療法人を含む中小企業は、経営者の強いリーダーシップがなければ維持することは難しいといえます。実際、経営とはその場その場で判断を迫られ、決断することの連続です。しかしその反動として、非常に優秀で万事問題なくうまくいっている(と思っている)人ほど、何でも自分で決断し続けていくうちに、ともすると人からの助言を受け入れなくなってしまうことがあります。「先頭を突っ走っていて、ある時振り向いてみたら誰もついてこなくなっていた」、これはある意味危ういことだと思います。

事業承継は、「相続」という側面が色濃く絡むことであり、そういった場面には必ず人間の心理が関わってきます。親族・身内にも、承継者/非承継者の違いがあり、現在のような先行きが不透明な社会にあっては、将来への不安から、「相続人として、相続でもらえるものなら少しでも多くもらいたい」と思うのは自然な感情でしょう。人間の感情は一筋縄ではいきません。最終的には経営者が決めることではありますが、日常の些細なこととは違い、長い時間軸のなかで周囲の状況や意見なども採り入れながら判断することが必要になってきます。

事業承継では、「ヒト」「モノ」「コト」の3つを引き継ぐ

事業承継においては「ヒト」「モノ」「コト」の3要素について引継ぎが必要になってきます。

「モノ」を引き継ぐにあたって

「モノ」とは、いうまでもなく医療法人であり、事業です。転ばぬ先の杖ということわざの通り、事業承継にとって大事なことは「計画」、そして「時間を味方につけること」、すなわち早い段階から準備することです。一般に事業承継計画は510年スパンで考えるべきであり、また一人で抱え過ぎずに外部の頼れるブレーンに相談することも大切なことだと思います。

仮に「遺言を残しておけば大丈夫」というお考えだとすると、それだけで何のトラブルもなく事業を平穏無事に引継げたという例は、およそ聞いたことがありません。事業承継にあたっては、間違いなく、計画性をもって生前に完了させることが正解といえます。

「ヒト」を引き継ぐにあたって

後継者が決まっても、直ぐに経営者の経験値に追いつくことはできません。そこでバトンタッチのために後継者にあらかじめ成長しておいてもらう必要があります。ドクターの場合、親子でも、診療に対する考え方の違いから、難しいケースがあるかもしれませんが、あるアンケートによると後継者の育成期間は510年未満の割合が39.947.4%と一番高く、専門能力だけでなく、財務マネジメント能力、リスク管理能力、統率力、人間性といった素養が必要になってきます。

「コト」を引き継ぐにあたって

引継ぎというと、とかくお金や財産ばかりに目が行きがちですが、経営者としての人脈や経営上のコツ、失敗談などの「コト」も後継者に伝えておきたいところです。事業承継ではプラス面ばかりでなく、マイナス面も引き継いでもらうことになります。経営者として、普段は誰にも伝えずに秘めた思いを後継者に伝えることもあるでしょう。

さきほど企業のことを「ゴーンイグコンサーン」(人のような死を前提とせずに続く存在)と表現しましたが、筆者は個人的には企業も人間と同じように死生観をもつことが必要なのではないかと考えます。当然、それができるのは経営者をおいて他にはいません。人間のような死は存在しませんが、経営者がその事業に魂を入れなければ、法人は間違いなく死(倒産)に絶えてしまうのです。

事業を続けていく上では、資金調達も重要な課題です。たとえば金融機関との付き合い方なども「コト」として伝えるうちのひとつです。

金融機関がお金を貸す相手は、定期的に借金をして計画通り返してくれる相手です。金融機関は借入の実績を見ますので、無借金経営の会社が急に融資を申込むと、経営の悪化を疑われます。また、代表者に資産がないと銀行がお金を貸してくれません。ですから、理事長先生、後継者ともに、ある程度の役員報酬をとって個人資産をつくっておくべきです。さらに、代表者の資産が自社株(医療法人の出資)だけだと、後継者以外の親族・身内に残す財産がありません。ですから、その後の相続のためにも、不動産や預貯金などを用意しておくことは重要なことです。
中小企業の融資は通常代表者の個人保証が条件ですので、継承者がそのご子息であれば、金融機関にとっては相続により担保が確保されることになり、歓迎されるということはあるでしょう。

事業承継を巡っては、民法や税法、医療法や会社法など複雑な絡みのなかで専門家とも相談しながら進める場面が少なくありません。一度立てた事業承継プランであっても、そのときの経営環境をとりまく経済情勢や税制改正などによって定期的に見直しすることが必要になります。一般の事業会社であれば、諸々の相談過程のなかで、自社株対策や組織再編などのいろいろな「策」があがるかもしれません。それらの中には有効なものもあり否定するものではありませんが、一般の事業会社とは性格を異にする医療機関においては、そうした「策」に溺れず、シンプル・イズ・ベストでのぞむことが肝心ではないかと考えます。

何よりも、事業基盤を残すこと、財産を残すこと。事業承継では会社(事業)が存続するということが成功の証になります。

※このコラムは、2016年7月現在の情報をもとに執筆しています。

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執筆者紹介

水本 昌克

水本 昌克
(みずもと まさかつ)

リーガル・アカウンティング・パートナーズ 税理士

昭和41年東京都出身。平成2年慶応義塾大学経済学部卒業。損害保険会社、辻会計事務所、税理士法人タクトコンサルティング(医療福祉チーム)などを経て、平成20年に株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズを設立。現在、税理士、行政書士事務所の代表とともに医療法人及び社会福祉法人の監事、NPOの理事を務め、医療経営、相続・事業承継対策を中心とした業務に取り組んでいる。
水本昌克氏が代表を務めるリーガル・アカウンティング・パートナーズのWebサイトはこちら

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